大学編 牧

□conte 10
2ページ/2ページ


久しぶりの一緒の撮影。しかし、それはいつもの仕事ではなく、某女性誌の特集用。
『今 大注目のいい男』
それに藤真が最後のおまけといえども載ることに相当な異論があるが、それよりも玲は自分は関係ないじゃないかと言いたい。
けれどその恋人同士ぶりがウケていること、そして自社名を売りたいメーカー側の意向もあり、玲も借り出された。

後ろから藤真の首に抱きつき、頬寄せる。
藤真の肩を華奢だと思った。実際は人並み以上で、見た目よりもずっと固く筋肉のはった体をしているのに。
藤真の胸の中にすっぽりおさまる。
温かさが違うと思った。少なくとも自分の求める温度ではないと。無意識に牧と比べている自分がいた。
その帰り道、いつものように直球が投げ込まれた。

「お前、付き合ってるヤツいんの?」
「な……何、いきなり。何でよ……」

玲の慌てぶりに、藤真は姉の心配はあながち取り越し苦労じゃないなと感じる。

「やっぱ、玲、おかしい」
「何が? そんなことないって」
「じゃ、最近会ってる男って誰?」
「何で健司がそんなこと……」

お前の姉貴が心配してるんだよ、それにいちおうオレもな、と藤真はポツリと言う。
それに、さっきの撮影中── 近い距離で見つめ合った玲の目は憂いを帯びていて、自分を通り越して誰かを見てるなと感じた。

玲は動揺していた。藤真の問う男とは、間違いなく牧のこと。誰? と言われて、よりによって藤真にそのまま答えられるわけない。

「…ごめん、今は……そのうちちゃんと話すから」
「ハッキリしねーな。だからお前らしくないって言うんだよ。言えねぇ相手って、まさか不倫とかじゃねえよな」
「アハハ、まさか、それはない」と玲は笑顔を見せた。

「ふ〜ん、まあ、難しく考えるな?」
「うん。ありがと……」

このままでいいはずがない、とは思っていた。牧の気持ちも、自分の心のありかもわかっている。だったら何をためらっているのか──
藤真の言う通り、考える必要はない。そもそも感情を頭でコントロールしようとするからおかしくなるのだ。
気付けば、玲の足は牧の家に向かっていた。
次の章へ
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ