大学編 牧

□conte 11
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わかっていたけれど、
気持ちを止められなかった。

*****


藤真に「誰?」と問われて答えられないのは、相手が牧だから……だけではないこともわかっている。ちゃんと形になっているのなら、言いづらくとも言える。今の曖昧さのせいだとわかっている。

牧といると深い安堵を覚える。そのくせ抱きしめられた瞬間は胸が高鳴り、彼しか見えなくなる。何も考えられなくなる。もうごまかしようがない──


ドアを開けた彼は、シャワーを浴びたところだったのか、洗いざらしの髪からは水滴がしたたっていた。

「いなかったらどうするつもりだったんだ」

牧は驚いていたが、穏やかに笑って迎えてくれた。当たり前のように。その笑みを見た瞬間、玲の身体から力が抜けた。

牧が好きだと強く感じた。牧はあっという間に自分を変えてしまった。玲は手を伸ばし、牧の肩にかかるタオルをとり 頭を拭いてやる。

「ちゃんと拭いた方がいいですよ」

合間から時折みえる目は優しく、全部おりている前髪は牧をいつもより幼く見せ、どうしようもない愛しさを感じ目の奥が熱くなる。
牧は自分を無条件で受け入れてくれていたのに、自分はちゃんと応えていない。牧の包容力に甘えていた。
牧にものすごい勢いで惹きつけられている。イノシシさながら、自分のベクトルは牧に向かっている──


「何かあった……か?」

とにかく上がれと促し、背を向けたその時、牧は背中に軽い衝撃を感じた。玲に後ろから抱きつかれたのだと気づく。

「どうした?」

優しく子供をなだめるようにそう言い、口元に笑みをうかべた。まわされた腕にキュッと力が入った。

「牧さ…ん、好き……です」

震えるような玲の声が届いた。玲の想いがついに溢れだした。
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