大学編 牧
□conte 12
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何? よくわかんないんだけど、と諸星が首をかしげていると、神がひと言。
「それ、玲ちゃんのだってことですか?」
「え?……玲ちゃん? と牧ってこと? え!?」
諸星は驚愕のあまり、食べていたサキイカをぽろっと落とした。
「すまん。諸星が気に入ってるのを知ってたが…オレも……気持ちを止められなかった」と牧は申し訳なさそうに言った。
「まあ、なんだ? まだオレ、かわいいな程度だったしそんなことはいいんだけど。何だよ、さっさと気にせず言やぁいいのに」
「そうだよな、玲もオレが聞いたときに吐けばよかったのに。まあ、言いづらいか? オレには」
「……はっきりしない…関係だったからじゃないか……?」
「付き合ってるか付き合ってないか?」
「まあ、そんなとこだな」
「え、でも、その時にはすでにあいつ朝帰りするって姉貴が言ってたぜ?」
「………」
皆の頭の中で何となく話が見えてきた。藤真はきょとんとする。あの白黒はっきりさせて、グレーなんてありえないって感じの玲が……
「あー、牧、手出したんだな!」諸星がすかさず反応した。
「ちがっ」
「あーあ、悔しいな。やっぱ先手必勝か?」
「まあ、彼女はそういうタイプじゃないと思いますよ。牧さんだからじゃないですか?」
「なんだよ、海南贔屓だな、神はー」
神は苦笑いしながら、グラスに氷を入れ 諸星のために焼酎を作った。そして、牧にも新たに注いだ。そのグラスを傾け、グイッとあおいでから牧は言った。
「オレはちゃんと感情があって彼女と……でも彼女の気持ちがわからなくて言えなかった。確証を得たのは最近なんだ。黙ってて悪かったな」
ふと気づくと藤真が肩を震わせている。牧が恐る恐る様子をうかがうと、突然笑いだした。
「ちょ……牧が恋愛事で悩んでたなんて、ひー、おかしくて笑っちゃうぜ」
「そうだな、あはっ、似合わねー。けど牧だと思うと、さっきの不倫の話は似合いすぎっ。」
諸星さん、それマズいですよと神もこらえきれずに吹き出した。
「玲もやるなあ、牧を悩ますなんて。ってか、牧、大人で優しい男ぶって口説いたのか?」
「で、玲ちゃんを落としたってわけですか〜」
「押し倒したの間違いだろ?」
「人聞き悪いこというな!」
ついに皆の知るところとなった。それはいいのだが、ひとつ気になることがある。
「藤真、玲がおまえには自分から話すときかないんだが」
牧が真面目に話しているのに、諸星の横やりが入った。
「『玲』だってー。急に自分のモンみたいな言い方しやがって。悔しーなあ」
「わかったよ。知らねーふりしてればいんだろ? それにその方がおもしろそ。あいつが何て言ってくるか楽しみだなあ」
やっぱりよくなかった……と牧は溜息まじりに立ち上がり、玲の忘れ物をそっとしまった。