仙道 後半戦

□conte 38
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雨が降ってきたので、テニス部は早めに切り上げることになった。暗くなる前に学校を出るなんて久しぶり。玄関を出ると、前方の校門に赤い傘をさした女の子がいることに気がついた。

他校の制服―――

それがどこの学校のものかなんて玲にはわからなくとも、彼女が噂の子だということぐらいすぐわかる。

「玲、仙道のこと待つ?」
「約束してないし。寒いからやだよ、帰ろ」と何気なく口にしてハッとした。
彼女はこんな寒い中、雨降る中、約束したわけでもないだろうに仙道を待ってるのだ。
自分の言ったことにがっかりする。自分の慢心に呆れる。強がりの部分を差し引いても、余りある甘えや思い上がり。その子を直視できず、通りすぎた。

自然と口数が少なくなっていたのだろう、それを見かねたのか、寄っていこうよと誰かが言い、ファーストフード店に入った。

「珍しく早く終わったしね」
「ホント、だから見なくていいもの見ちゃうんだよ」

部活仲間は遠慮ない。

「1年の沢井と同じ中学だったらしいよ。かわいいけど、普通の子だって」
「その普通ってのがタチ悪いのかもね。もっとガツガツ来てくれれば、仙道だって断りやすいのに」
「今までもこんなことよくあったし……」との玲の言葉に、仙道ののん気さがうつってると皆に溜息をつかれた。

そう、こういうことは時々あった──
そしてそれは人づてに聞くことがほとんど。いかに自分が仙道の近くにいないかを知らされているような気がする。
かといって、今日のように実際目にすると少なからず動揺している自分。だから皆がこうして気遣ってくれるのが嬉しい。

「仙道は何か言ってる? ふたりはうまくいってるんでしょ?」
「特に。その辺りの話はしないし」
「仙道は平気だよ。相変わらず玲のこと猫かわいがりじゃん?」
「猫!? 違うよ、この子は猪突猛進、イノシシです!」
「それじゃあ、普段の仙道なんてすぐ体当たりされておしまい。あのデカい図体、何のためにあるんだか」

次から次へとガールズトークに盛り上がる。ありがたい。きっとひとりで帰ってたら、つまらないことを考えてしまっていただろう。いくら強いと言われようと、恋愛は簡単に人の心を揺さぶる。

「仙道もぼんやりしてる場合じゃないのにね。玲だって、どうすんの?あの電車で告ってきた人」
「いや、どーもしないよ……」

そう、どうもしない。
きっと仙道もそうなのはわかっている──
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