仙道 後半戦

□conte 45
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 藤真が突然、家を訪ねてきたと思ったら、「玲、バイトしねえ?」と言い出した。

「推薦、決まったんだろ?」
「おかげさまで……」

いつごろからだろうか、藤真はスポーツメーカーのバスケ関連商品のモデルの仕事をしている。大会でその実力と容姿を気に入られ、カメラマンの父に話が通ったらしい。
そしてあれよこれよと言う間に、スポーツ店をはじめ、ときおり街中の広告にも藤真が登場するようになっていた。

それに伴って、売り上げもすこぶる快調らしい。越野も「オレも藤真さんのバッシュに乗り換えようかなー」なんて言っていたくらいだ。

そして、今回、藤真がわざわざ出向いてきたのは、レディースのモデルを探していて、
玲はどうかと思ったから。

撮影時の世間話から、従妹もIH出場するくらいの選手だとクライアント側も聞きつけ、写メを見ていいじゃないか、となったらしい。
藤真とセットなので、雰囲気が合うかどうかが一番のポイント。それにやはりただスタイルがいいだけでなく、鍛えられた部分がないといけない。とすると、最適だと白羽の矢がたったわけだ。

「バスケじゃなくて、テニスだけど? 出たって言っても一回戦負けだし……」
「細けえことはいいんだよ」
「じゃ、誰でもいいじゃん」
「だからおまえなの。マスコミ志望だろ? ああいう世界知っとくのもいいかと思ってさ。出版とかいろんなメディアとも関わりあるし」

玲は藤真らしいと思った。意外といろいろと考えてくれてる。ただ身近にちょうどいい人がいるってだけでなく、玲にとっていい話だと思ったから持ってきてくれたのだ。

「とりあえず 今度一緒に来てみろよ」
「うん……」

ところで仙道、F体大だってなと藤真が話を振ってきた。うちも狙ってたらしいんだけどなあ、と。

「オレもあいつとまた一緒にやりたかったな。でもお前と別れたりしたら気まずくなるか!? ああ、それであっち選んだんだな、なるほど」

腕組みしながら、ひとり納得していた。だが神が来るそうだ。あの海南の。
夏の選抜では最後まで陵南を苦しめた神。そして、最後は敗れ、常勝伝説が途絶えたときの彼の顔は歓喜の中でも忘れられない。

「だから、いつ別れても平気だぜ? もうお互い飽きてきただろ?」
「そんな飽きるほど一緒にいたことないって。お互い部活で。わかるでしょ?ホント、彼氏彼女と言っていいのかどうか疑問なくらいね」 「おまえは彼氏じゃないのに、許すんだあ」
「何を?」
「カ・ラ・ダ」
「バカっ!」



話はトントン拍子にすすんだ。もちろん、藤真と並べばイメージ通り。雰囲気もカラーも合う。藤真と同じエージェントと契約することになった。

「聞いてない!やっぱり騙された……」

帰り道、玲は藤真に詰め寄った。

「たいしたことじゃねーだろ。オレだからいいじゃん」
「いや、知ってたなら言うべきだ」
「そしたらお前、絶対渋るだろ?」

藤真と並んでレディースのモデルというだけでなく、藤真の恋人役でもあった。

「絵コンテ見た?」

藤真を応援してるらしきシーンから、ピッタリと体を寄せて座り、見上げて微笑み合うものまで。

「オレのこと、仙道だと思ってやりゃいんだよ。楽だろ?」
「ありえない──」
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