仙道 後半戦

□conte 47
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気づくとスポーツ店に藤真とのポスターが張られていて、思わず俯いてしまう。WJBAの選手の中に、あのピンクのバッシュを履いてくれてる人もいるらしい。
売り上げもすこぶる順調とのことで、夏のウェアの話も舞い込んできた。もちろん藤真とセットで。

夏商品を真冬に撮影。寒いのが嫌いな藤真は、すっごい文句を言っていた。だが調子がいいので、カメラを向けられると笑みを見せる。

「玲、もっとくっつけよ」
「やだよ」
「さみーんだよ!」
「ふざけんな」

微笑んで見つめ合いながら、そんなやりとりを実は交わしていた。


家も決めた。2部屋にリビングとキッチンの間取り。今のマンションは賃貸に出す。いずれ両親は湘南に戻ってくるつもりだ。

ここを離れることは寂しくてしょうがない。仙道も3年間とはいえ、思い入れがあるらしく、このままここにいてえな、なんて言っている。もう今までのように簡単に釣りにも行けないなあ、とも。


誰もが感傷的になる卒業式の日。同級生たちに次々に声をかけられた。

「仙道、プロになれよ」
「めざせNBAだろ?」
「玲ちゃん、新しい広告でたら見にいくよ」
「藤真くんのサインもらえない〜?」

そして、皆が必ず言う。

「仙道くんと仲良くね」
「芹沢さん、ちゃんと掴まえとけよ?」


仙道は越野たちと体育館に行き、玲は小夜子たちとテニスコートへ。
彦一を始め、後輩たちは皆泣いていた。田岡監督の目も潤んでいるような気がする。特に自分がスカウトした仙道の卒業は何よりも感慨深いのだろう。

「やべーな、田岡先生の顔見れねえや」
「だな、俺ももらっちゃいそう」

越野も俯き加減。冷静な植草でさえ、挨拶するときは声が震えていた。福田もいつも以上にプルプル震えているようだ。

体育館を出るとまぶしいくらいの春の日差しが注がれる。この光景も終わりかあと思うと何ともせつない気持ちが湧いてきた。
ちょうど玲たちがテニスコートに続く階段を上がってくるのが見えた。
皆、泣いたらしい。目が赤い。でも仙道に気づくと、笑みを作ろうとする。

「玲、それブサイク」
「うるさい……」

そんなふたりを見て、バスケ部の後輩が急に思い出したように言った。

「夏に全国行けたのって、玲さんのおかげっすよね?」
「ああ、あの一緒に行こうってやつか?」と越野がニヤリとした。

「あの時の仙道さん、最高にカッコよかったで。最後の……あっ、もう一度やってもらうってどうやろ?」
「お、彦一、いいこというな。なあ、テニス部、見てないんだろ?」

植草が小夜子たちに聞いた。何?なに?と皆が集まってくるではないか。福田が仙道に耳打ちすると、仙道はしょうがねーなあとニヤリ。
大股で玲に近づいてきた。

玲は危険を感じ、後ろずさる―――

「え? なに?」

だが周りに背中を押し戻され、仙道に捕まった。

「もう一度見たいって。後輩の最後のお願いを聞いてやらねーとな」と言ったと同時に、抱きしめて耳元で「夏の再現だって」と囁く。

少し体を離したかと思うと、玲を覗きこみ、顔を近づけキスをした。

おおっ!とバスケ部の低い声と、テニス部からはキャー!という歓声が。

「ちょっと!」
「あの時よりギャラリー少ねえからいいだろ?」
「セクハラで訴える!」
「何か、どっかで聞いたことあるな…それ……」


仙道は今週末。
玲は中旬には引越しをする。
4月から新生活が始まる―――




 fin.
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仙道長編 高校編 完 2014/4/9
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