仙道 後半戦

□conte 36
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翔陽の文化祭。バスケ部は毎年、海南を招いて試合をすることになっていた。夏の選抜では叶わなかったカードであり、その注目度は高い。

偵察に行くということで日曜の午後練の休みをもぎとっていた仙道は、同じく作意的に玲の練習も午後はナシに調整してもらい、連れだって翔陽に向かった。
「男子校に潜入するの初めて」と玲も興味津々だ。

進学校でもありながら、運動部も強い翔陽の人気は高いらしく、こんなときでもないと入れないので、けっこう女の子率が高い。有名私立女子高の制服もチラホラ。おかげで校内の空気も浮足立つようにソワソワしていた。

学校に足を踏み入れた時から、すれ違う人々の視線を感じていたが、 体育館が近づくにつれそれは顕著になってきた。

「何だろ? やっぱり彰?」
「んー、違ぇな……たぶん玲だよ」

今日はそんなに女の子珍しくないでしょ? と聞き返すと、藤真さん効果かな、と仙道は答える。体育館行けばわかるよ、と。

翔陽バスケ部は大所帯であり、レギュラー以外、特に下級生は仕事を終えるとギャラリーに移動していた。ちょうどそこへ仙道と玲も到着し、あ、陵南の仙道だ!と一斉に見られるが、その後はもっとざわついた。

「藤真さんの……」

藤真の名前がささやかれ、明らかな好奇の視線を浴びる。玲も理解し始めると、決定的な事実が聞こえた。

「藤真の従妹が来てるらしいぜ!」
「マジかよ?」
「きっと試合見にきたんだと思って、オレここ来たんだけど」
「例の噂の従妹だろ? 藤真に似てるって」
「見てーな、どこだろ」

今のやり取りを聞いてしまったとあっては後ろを振り向いたり出来ない。身動きとれずに固まっていたら、仙道が後ろから自分を覆うように立って隠してくれた。そして手すりにつく両腕の間にすっぽりと収められる。

「玲が他の男にジロジロ見られるのはいい気しねえからなー」と耳元で甘く囁かれ、玲はこれじゃあドキドキして試合どころじゃないよ……と溜息をついた。

だいたい仙道自身の試合だってあまり見ることが出来ないわけで、一緒に観戦するなんて初めてじゃないだろうか。低音の優しい声の解説を耳元で聞きながら、眼下で繰り広げられる熱戦に見入るうちに、さきほどの雑音なんて忘れてしまっていた。

「健司は大人しくバスケしてれば問題ないんだけどなあ」
「う〜ん、敵にまわすとやっかいなんだよ。プレイは大人しくないからね」

仙道は玲の頭にちょこんと顎を乗せながら、藤真のバスケについて話す。そこから一目置いていることが伺い知れて、玲は何だかくすぐったい気持ちになった。
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