仙道 後半戦

□conte 34
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国体 神奈川選抜チームの出発日──
駅に集合してバスで栃木入りする予定である。けっして早くない集合時間なのだが……すでにもう数分前。仙道がまだ来ていないので、福田と録画係りの彦一は心配していた。

イライラしだしてきた時、ロータリーの少し手前に一台の車が止まった。白いSUVタイプのBMW。その後部座席から仙道が姿を見せた、かと思えば、続いてスラッとした女性が降りてくるではないか。

遠目で見ても美人なのがわかる。ヒールのあるパンプスを履いており、服装からして少し年上のようだ。
誰だ? 年上だぜ? 浮気か?―――
色めきたつ男子高校生たち。誰もが目を離さず、一部始終を食い入るようにみつめる中、その女性は頑張ってね〜と手を振る素振りをみせ、また車に乗り込み去っていった。それをしっかり見送ってから、仙道はこちらに悠々と歩いてくるではないか。

「おはようございます。間に合いましたよね?」

彦一が何の悪気もなく疑問を口にした。

「仙道さん、今の女性は誰ですか?」
「浮気か?」とニヤニヤと問う三井の後ろでは、福田が憮然とした顔をしている。

 「やだなあ、そんなことあるわけないじゃないですか、ね、藤真さん?」
「何だよ、オレに証言しろってことか?」

周りは意味がわからない。

「玲の姉ちゃんだよ! でもなんであいつに送ってもらってんの?」
「いや、正確にいうとお姉さんの彼になんすけど」

昨夜は玲の家に泊まり、そこから来たらしい。母親と姉もいて、俺は客間に寝てますからと仙道は念を押す。で、ちょうど姉を迎えにきた彼に乗せてもらったとのこと。

「なんだ、やっぱり女の家から来てんじゃねーか」と宮城がやっかんだ。


無事、時間通りに全員を乗せてバスは出発した。前列から、問題児の多い湘北。落ち着いている翔陽をはさんで陵南。そして一番後ろに海南勢。

国体のパンフに目を通す者、本を読む者、すぐ寝る者……。仙道はイヤホンを耳にし、ぼんやり外を見ていると、後ろに座っていた神が「何 聞いてるの? 洋楽?」と聞いてきた。
片方を渡すと、「誰だっけ、これ。テンション上がるね」と感想を漏らした。

「さっきのさ、お姉さんの彼氏が入れてくれたんだ」

その言葉が前に座る藤真の耳に入ったらしい。

「白のBMWヤローが?」
「露骨ですね。ってことはオレも敵視されてるんですか?」
「お前は元々敵だ」
「けど今はチームメイトですから」と仙道はニコリ。

「将来 親戚になるかもしれませんよ?」と神が思ったことを口にすると、「うわ〜 それは言うなって」と藤真が実に嫌そうな顔をした。

「ひどいなー、藤真さん。それにお姉さんの彼、とってもいい人ですよ? K大の医学部だし」
「なおさら 気にくわねー」と藤真は前に向き直って 目を閉じてしまった。

神が小さな声で言ってきた。

「藤真さんてさ、シスコンみたいに、従姉妹 大事にしてるよね」
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