仙道 後半戦
□conte 32
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国体合宿を海南で行った翌週は、体育館の都合で陵南で練習が行われることになっていた。
神奈川のそうそうたるメンバーが集まるということで、彦一は朝からノートとペンをスタンばって待ち構えていた。
「チェックすることだらけやー!」
まだ暑い季節であり、体育館の扉は開け放たれているが、混乱を招くからという理由で、この2日間は見学禁止と通達がでている。
「国体メンバーなんてすごいよね。ね、ね、従兄も来てるんでしょ?」
「超美形でかっこいいって聞いたよー、見たいなあ」
「しかもそれで神奈川高校バスケの双璧って呼ばれるくらいすごいんでしょ?」
なんで、陵南で練習なんだ……と玲は思う。しかも朝、母に腰の抜けるようなことを言われた。今夜、藤真が泊まると。翌日も陵南で練習があるからと──
玲にとっては生まれたときから何かと一緒に行動してきた従兄。中学入ったころから部活が忙しくて会うこと激減したとはいえ、藤真はお兄ちゃんみたいなものだ。
自分が高校に入ってから、いや、仙道を通してバスケを身近に感じてから、藤真の注目度の高さを知って今だに驚くことばかりである。昼休憩中も、ずっと友達に会わせろ会わせろとねだられた。
体育館の国体メンバーも休憩らしく、一斉に外に出てきた。
「あー、あちい。」
「腹減った〜〜死ぬ」
「田岡監督って、やっぱりあのテンションなんだな」
「あの要チェックやーって叫び、何とかならねーの?」
コンクリートの階段に座って昼をたべながら、しばしの休憩に思い思いの話をする。陵南高校は海に近いので、海風が通りぬけ気持ちがよい。
水道から戻ってきた仙道が、元のところに座ろうとしたが、またふいに立ち上がり軽く手をあげた。皆も何気なくその視線の先を追うと、揃いのクラブウェアを着た女の子数人が歩いてくるではないか。
仙道は大股で近寄り彼女たちと話し始めたのだが、その中に仙道の彼女の玲がいるのに、誰もがすぐ気が付く。
「あいつら、学校でもいちゃつきやがって」
そんなことを言うのは藤真だ。「共学はいいなあ」と花形がつぶやいた。
「共学だからって、ああとは限らないっすよ」
「宮城、お前は彩子とクラスも部活も一緒だろうがっ」
「でもアレとは密度がちがうじゃないっすか……」と仙道を指して悲し気な宮城を、神がまあまあとたしなめた。
そんな国体集団の前にさしかかり、玲は藤真に気づき手を振り、そのほかの皆に向かってお疲れさまですと声かけた。
「玲、今日お前んとこ泊まるから」
その藤真の言葉に、2人の関係を知っているとはいえ、全員がちょっとギョッとする。仙道は飲んでいたミネラルウォーターを吹きだしてしまった。小夜子たちは、彼が噂の従兄だと確信し、しかも藤真に見惚れた。
玲は持っていたタオルを それで拭くよう仙道に渡しながら、「いやらしい言い方しないでよ」と藤真は睨みつけた。
「バーカ。お前が従妹で、しかも仙道の女だってことも皆知ってるに決まってるだろ」
ヤツが鎖骨フェチってこともな、と周りにだけ聞こえるように藤真が言うから、皆の視線が玲の首元に集中する──
仙道はその男どもの好奇な目つきに気が付き、慌ててタオルを玲の首にかけた。グルグル巻きつけるので、何? 暑いよ! と不審がられるが、仙道は眉尻を下げて苦笑い。
去っていく後ろ姿を見ながら、三井が小さな声でつぶやいた。
「あの鎖骨はヤバいな……」