仙道 大学編

□conte 06
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仙道の様子がおかしかったのは、7月初め。
それから数日後、藤真の携帯が鳴った。牧からだった。今夜、ちょっと来れないか?とのこと。何やら話したいことがあるらしい。
神と一緒に来てくれとかなり強引に誘われた。わけがわからない、が、それゆえに気になる。

牧の家へ行くと、まあ予想通り仙道がいる。この間は送ってもらっちゃってすみませんと礼を言われ、藤真は思いだした。

「珍しいよな、お前があんな酔うなんて。玲も驚いてたぜ? 何かあったのか?」

どうやら核心に触れるようなことを言ってしまったらしい。いつもはポーカーフェイスの仙道が少し顔色を変えたことに藤真だけでなく、神も気が付いた。

まあ、座れと牧に促され、ビールの缶を渡された。いっきに半分ぐらい飲んでから、改めて仙道の顔を見ると、もういつも通りだった。

「あの日話もらったんすよ、監督から」
「何の?」
「アメリカの大学に行かねえかって」

仙道はグイッとビールをあおった。藤真と神は顔を見合わせた。
この間のUCLAとの試合後に、向こうから誘いの連絡が入ったらしい。受け入れたいと。仙道の伸びしろのあるテクニックと若さに目をつけてくれたそうだ。

「すげえな、いい話じゃねーか」
「ですよね。オレもそう思います」

願ってもないチャンスで、自分が出来るとこまでやってみたいと仙道は言う。実際にUCLAとの試合を経験したら、さすがにマイペースな仙道といえど、触発されるものがあったのだろう。ちょうど9月の新学期にも間に合う。

「そうか。行くんだね、アメリカ」

興奮気味に話す神に、仙道は新しいビールを渡した。 藤真にも差し出し……目があった。

「じゃ、何でそんな顔してんだよ?」

受け取ったビールのプルトップを開けながら藤真が言った。聞くまでもねえけどな、と。
仙道は苦々しい笑みを浮かべた。神もああ、そうか、と少しトーンを落とす。

行く行かないの結論は出ている。それこそ言うまでもない。こんないい話、二度とない。
それはわかっているし、先は見えないけれど、何よりバスケをしたい。アメリカで。
行くという決心は出来てるものの、どうしても考えてしまうこと―――
そこで牧がはじめて口を開いた。

「高校時代に、神が『仙道の弱点は彼女だ』と言ったことが思い出されるな」
「ああ、まさかこんな形で証明されるとは思いませんでしたけどね」

「行くことに何の迷いもない……でも、玲のことを考えると行きたくねえって思っちゃうんですよね。すげえ、矛盾してるんですけど」

超遠距離だなと藤真がつぶやくも、仙道はうつむいた。
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