仙道 大学編

□conte 07
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土曜の午前。バスケ部の練習が始まる前に、A学院大体育館を借りて新作の撮影が行われた。
まったく誰が考えるのか、次から次へ要求がなされる。はい視線こっち、肩を抱きよせて、もっと近づいて……

何も知らない玲は、いつも通りこっそり悪態をつきながら、藤真を見上げて笑ってくるが、数時間後にはこの笑顔が崩れるであろうことを思うと藤真は複雑だった。
皮肉なことに、それがせつなげな眼差しとなって注がれたことで、藤真くんいい表情だね、いいよーなんて言われて、「……ざけんな」とひとり呟く。

藤真単体でのシュートシーンの撮影中、玲は体育館の入口付近で涼んでいた。続々とA学院大メンバーがやってきた。もちろん玲のことは知っているので、話しかけてきてくれる。ランニングを済ませた神もやってきた。

「おはよ、玲ちゃん」

入れ替わりでアップにいこうとするメンバーたちが、外用に履き替えながらの会話が背後から聞こえてきた。

「F体大のヤツから聞いたんだけどよ、仙道ってアメリカ行くんだってな」

噂の広がりは早い。こうやってどんどんひろまっていくのだろう。

アメリカ───

玲の目が見開かれる。反射的にその声のほうへ振り返り、それからゆっくり隣にいる神を見上げた。神はそのときの玲の顔が忘れらないだろうと思う。

そこへちょうど藤真が汗をふきながらやってきた。ふたりの異様な雰囲気を察した。
「藤真さん……」神が声を絞り出し何か言おうとすると、玲がさえぎった。

「健司も…知ってたの……?」

藤真はハッとする。神が言うわけはない。噂が耳に入ってしまったことを理解した。
「ったく、声デケーんだよ……」ランニングに行くメンバーたちを睨みつけた。

「ああ、仙道は今夜、お前に言うつもりだって……」

玲は理解につとめようと瞬きを繰り返した。

「玲……」
「ごめん、健司。やっぱもう私帰るね」
「玲!」
「ん? 大丈夫だって……」

どこがだよと突っ込みたくなるような顔をした玲に藤真は黙っていられない。

「仙道はお前のこと……」
「……うん、わかってるって」

言葉に詰まっていると、「大丈夫だから」とまた繰り返し、玲は手をふって出て行った。

「他人から聞かされるなんて、最悪だよな……ちくしょー」
「藤真さん、仙道に言ったほうが」

ああ、と急いで電話した。
仙道は意外と落ち着いていた。すみません、巻き込んじゃって、と詫びてくる。

「何いってんだ。玲はオレの妹みたいなもんだ。あ、おまえは他人な」と軽口をたたくも心配だ。
どうなるかはわかっているような。でも少しでも傷が浅くすむといいと願わずにはいられない。
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