仙道 大学編

□conte 09
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「そんなことになってたんだな……」と三井が呟いた。

あれから数日後、藤真の家でいつものメンバーで飲み始めた。牧、神、三井、仙道。

仙道はあの日は拒絶されたので、翌日に玲と会った。少々疲れたような顔をしていたが、いつもと同じに見えた。

何て切り出そうかと思うまもなく、玲から「アメリカ行くって決めたんだね」と話を振られ、そして私たち終わりにしよう、と告げられた。そうして欲しいと―――

「やっぱ、そうきたか」

藤真が冷蔵庫から新たにビールを出しながら振り返った。

「潔い、な」
「オレの方がいやだって言いそうになりましたよ」と仙道は首の後ろに手をやりながら、うつむいて自嘲的に笑った。

「別れないといけないのか?」と三井。
「玲もそれがお互いのために一番いいって結論だしたんですよ。約束なんて出来ねえし。それにそんなことしたら玲がきっと苦しむことになると思うから……」

お互いを想いあってて、それがわかっているのに別れる……なんて。だがそれが仙道の覚悟をより強固なものにした。


藤真はあの日、玲の姉に連絡して玲の様子を聞いた。玲は部屋にこもっていたという。そして、仙道と話をした日はあきらかに泣いていた……と。
あの玲が泣くなんて、聞いただけで胸が痛んだ。

「藤真さん、すみません。結局オレは玲を泣かせるようなマネしました……」
「バーカ、お前が振られたんだろ?」
「そうですね、もう会わないって言われました」
「会ったら……行かないでって言いたくなるからだってよ」

最後に玲の想いを伝えたくて、仙道には酷かもしれないがそう言った。それが伝わったのか、仙道は苦笑いする。

「もう、オレ、バスケしかねーなあ」
「いつ発つんだ?」
「8月の中ごろに」


準備に追われ、恐ろしいほどの勢いで時間が過ぎていった。練習もかかすわけにはいかず、慌ただしい日々。というより、忙しく過ごして、何も考えたくなかったのかもしれない。

玲もまたそうだった。ア〇ックスの広告の評判のよさから、女性誌の専属の話をもらった。迷うことなく快諾する。考えるヒマもないくらい予定を詰め込み、毎日をやり過ごそうとしていた。

越野からも連絡が入り、その翌日に小夜子と家に来てくれた。酔っぱらっていいぞ?とお酒をいっぱい買い込んで。

「仙道はバスケに婿入りしちゃうようなもんだねえ……。玲に身を引かせたんだから、離婚は許さないっ。コッシー、よく言っといてよ!」
「あいつも腹くくったみたいだぜ? 今回ばかりは」


気づけば8月も半ば。越野から聞いた仙道の出発は明後日。
夏休み中でもあるし、テニスのコーチのバイトもけっこう入れている。ア〇ックスのモデルという肩書も一人歩きし、玲のタームは大盛況だ。

駅を出るとタイミング悪く雨がひどくなってきた。 少しやり過ごせば小雨になりそうだが、玲はかまわず傘をさし歩きだした。

ひとりになると、どうしても思考が引き戻される。考えてももうどうしようもないことを思いめぐらしてしまう。

うつむいていたから、目の前に来るまで気が付かなかった。家の前に大きな影があることに。

仙道が立っていた―――
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