大学編 神
□conte 02
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好きだ──
優しい神の声で、好きだという言葉を聞かされる。何が起こっているのか理解できない。
自分の頭よりずっと高い位置の顔、頬にふれるしっかりとした胸板、力強い腕。かつて知った感触とよく似たそれに、錯覚しそうになる。
思わず顔をうずめそうになってハッとした。仙道じゃない。仙道のはずがない。何かが違う。
「離し……て」
神の胸を押して離したが、その手を掴まれた。振りほどこうと腕を引くと、逆にグッと引き寄せられた。
次の瞬間、唇に唇が重ねられる。それが神からのキスだとすぐに認識できなかったのは── キスするときに、かなり上向かさせる角度、この慣れた角度のせいだ。
玲が愕然としていると、また唇を捕えられる。離れてはまたあてがわれる。顔をそむけようとしても、さらに覆われる。神の胸を押し返そうとしてもむしろ逆効果で、余計にきつく抱きしめられた。
「神…やめ……」
唇を開いたことで、かえってそこから舌の侵入を許してしまう。
「……!」
強引でありながら優しく絡められるその感触に、流されてしまいそうになる。必死に抗おうとするが……
抵抗しながらも、腕の力が抜けていく。それを感じてか、抱きしめる腕が隙間なくすべてを包み込もうとする。それに身を委ねてしまいそうになる……
違う── 神くんに彰を重ねているだけ。
「お願い……」
数秒して神は唇を離し、腕の力を緩めた。
「……わかってる。玲ちゃんがまだ仙道を忘れてないことも」
「だったら……」
「でも言わずにいられなかった……」
神は視線をいったんそらした。が、決心したようにまたしっかりと玲を見つめ直した。
「オレ、気づいたら、玲ちゃんのことしか考えられなくなってた。好きになってた。仙道のことを忘れてなくてもいい……すべて含めて玲ちゃんを受けとめるから、オレのとこに来て欲しいんだ」
玲はただただ驚きを隠せない。自分のことで手いっぱいで、他のことを見ようとしていなかった。そんなふうに神が思ってくれていたとは全然気がつかなかった。
神は苦しそうな顔をしており、そんな顔をさせたことが申し訳ない。それに神にこんな強引なことをさせてしまったのも自分だ。
神の仕草で仙道を思い出したなんて。しかも、神の胸の中で仙道の感触を追い求めたなんて──
玲が茫然と立ち尽くしていると、「考えてほしい……」と神が言う声が耳に届いた。