大学編 神
□conte 04
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玲がバイトを終え帰ろうとすると、ビルの出入口で藤真が待っていた。
「一杯飲んでいこーぜ」
表通りから一本入ったところにある、スペインバルのカウンターに座った。そしてお疲れとビールの杯をあわせたところで、投げかけられた直球。
「おまえ、神からの電話に出ないらしいな」
「いきなり来たわね……」
牧たちと飲んだあの日は2週間ほど前だ。あれから数回、神から着信があったが、気づいても出なかった。
「出ちゃいけないんだよ……」
藤真の眉がピクッと上がる。
「玲の言いたいことはわかるよ。でも神は忘れてなくてもいいって言ってるぜ?」
「それじゃ利用するみたい……」
「利用上等! それでも神はおまえがいいんだってよ」
オレには理解できねーけど、と藤真は言い捨てた。そもそも神もなんで他の男に心残してる女に惚れたりするんだ。しかもそれを何とかしようとしてる自分。
神と玲じゃなきゃこんなことまでしないとはいえ、監督肌が抜けねーのかなあなんて笑えてくる。
「神くんが傷つくし、苦しくなるよ。そんなの私がイヤだから」
「何かと仙道、思い出しちまうからか?」
「………」
「難しく考えすぎだっつの。そんなの最初だけだ」
「でも傷つくよ……」
ったく頑固なやつだな、と藤真は思う。あー、オレと似てるんだっけ?―――
「じゃ、今のヘビの生殺し状態や、お前に拒絶されるのは傷つかねーっていうのか? 多かれ少なかれ傷つくんだよ。だったら神を苦しめたくないなんてキレイごと言うな」
玲はビールをあおった。
まったくこの従兄はズケズケと言われたくないことをはっきり言ってくれる。またそれが核心をついてるから腹が立つ。
「神のこと、嫌いか?」
「まさか」
「男としては?」
「そんなこと言われても……」
神くんは優しい。そして芯の通った強い人だ。この半年ほど、何度も気持ちの上で助けられた気がする。会うと「玲ちゃん」と笑ってくれた。
「別にオレは無理に神を薦めてるわけじゃねえ。ただ玲はどうしてーんだよ?」
藤真は追及の手をゆるめない。
「仙道のこと忘れようとする振りしながら、忘れたくねえんだよ、おまえは。って言うより、気持ちが動くのが怖いんだろ?」
それにさ、と続ける。
「あいつは、仙道は……玲を縛り付けたくなくて別れたのに、おまえ自身が自由にならなかったら意味ねーよ」