大学編 神

□conte 05
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「少し歩こうか」店を出てから神が言った。まだお酒を飲んだにしては早い時間であり、人の往来も多い。
裏通りから大通りに出ようとしたとき、人の流れにぶつかりそうになり、避けようとした玲は神の腕にぶつかった。

「ごめん」

ちょっとした接触だったが、玲は触れた頬が熱くなるのを感じた。先日のことを思いだして、気持ちがざわつく。

「玲ちゃん、あれから少しはオレのこと考えてくれた?」

そこへ神のカウンターである。確かに考えてほしいと言われていたけれど。さきほどまで何事もなかったかのような素振りだったので、玲は眩暈がしそうになった。少し気を落ち着けてから口をひらく。

「…電話……出なくてごめん」
「あ、また謝った」

玲ちゃんに謝られると困っちゃうんだよなあ、と神は苦笑いする。そして、こっちから行こうと駅まで公園を通る道を、玲の手をとり踏み出した。


神に手をひかれる形で、両側に並木が続く道を歩いた。その大きな手に包まれる感覚は、かつてのものとよく似ているが……違う。

ほぼ同じなのは背の高さだけで、少し後ろから見る姿も、気配も……似ているようで、実際何もかも違うことに気づく。
この手もバスケットボールを自在に操り、そして自分の手を引いてくれている。けれど似て非なるもの── 玲の歩みが止まった。

神が振り返ると、玲は神の手を見つめていた。その神の手に少し力が入った。

「オレの方が玲ちゃんを困らせてるよね。でも後悔してない、だから…玲ちゃんの気持ち、聞かせてよ」

時間にしたら数秒だろうが、時が止まったようにさえ思えた。


「今の私じゃ、神くんが傷つくだけ……と思ってた」

玲はうつむいたまま話し出した。
  
「でも健司に言われたよ、そんなの言いわけだって」
「……どういうこと?」
「きっとそばにいたら、神くんに惹かれていくだろう自分が……そんな自分の心変わりが怖くて、どうしたらいいかわからなくて……その前にストップかけようとした」
「それって……」

神は大きく息をついた。

「玲ちゃん、そのストップかけないで欲しいんだけど」
「そうしたら止まらなくなるかも……」

繋いでる手と反対の手が玲の頭を撫でる。この間は仙道を思い出させた仕草―――

「だから受け止めるって言っただろ?」

そしてそのまま頭を引き寄せ、自分の胸の中に抱きよせた。この間は衝動的にしてしまった行為。だが、今は優しく玲を抱きしめた。
玲も深呼吸してから、神の背中にそっと腕をまわした。

「玲ちゃん、好きだよ」

その言葉に、背中の手にそっと力をこめて応えた。



帰ろう、と神は玲の手を再びとった。先ほどまでは、なされるがままで繋いでいた手だが、今はしっかりと握り返される。そのぬくもりは心まで温め、満たされるよう。

「ね、玲って呼んでいいよね?」
「ってことは、ソウイチロウ? う〜ん、間違えそう……」
「いいよ、間違えても。アキラって呼んでもオレは許すよ。仙道に免じてね」
「ち、違う! 『神くん』ってのが抜けないってことだって」

神がサラリとそんなこと言うので、玲が慌てる。そんな玲を神はたまらなくかわいいと思う。顔を覗き込んでキスをした。

玲は驚いて神を見上げた。温和なイメージの神だが、意外と大胆で押しが強い。

「何?」
「いや…神くんって……思ってた感じと違う……」
「そう?それより『宗一郎』って呼んでよ」
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