大学編 神
□conte 06
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玲のバイト先のテニススクールは、A学院大から地下鉄でひとつ先。一駅乗るくらいなら、A山通りを歩く方が気持ちいい。
オシャレなセレクトショップを覗きつつ道沿いに行くと、A学の体育館の屋根が見えてくる。土曜の今日は17時までだと言っていたので、まだ絶対に自主練をしているはず。クラブハウスの前を通ると、帰ろうとする藤真に出会った。
「よお、あれ? 来るなんて神、言ってなかったけど?」
「勝手に来たの。神くんまだやってるよね?」
「ああ、もう神しかいねえよ。ってか、おまえまだ『神くん』なんて呼んでんの?」
名前で呼んだら呼んだで、変わり身早えな、とか言うくせに。でもさんざん世話になった気がするので、反論するのを我慢して、足早に体育館に向かった。
確かに神ひとりだった。聞いてはいたけど、初めて見る。神のシュート練習。
高校時代からずっと続いているというそれは、静寂の中、規則正しく静かに繰り返される。彼の目はリングしか見ていない。玲も静かにその様子を見ていた。
気づけば、自分の周りにはバスケに打ち込む人が多い。藤真も小さい頃からやっており、自分も付き合わされた覚えもある。
三井は一度は離れたバスケを捨てられずブランクを経て戻ってきたと聞く。しかもアメリカまで行っちゃった人もいるし……と玲はひとり薄笑いした。
そんな玲の視線に気づいたかのように、神がこちらを向いた。真剣な表情が、驚きの中で柔らかく微笑んだ。
「玲? びっくりした」
「バイトの帰りだけど、宗一郎、まだやってるかなと思って」
「そっか。もう少しだからちょっと待って……いや、ちょっと休憩」
出入口の柵に軽く腰かけた神に、玲は買ってきたスポーツドリンクを手渡した。ありがとうと自分に向けられた神の笑顔を思わずジッと見つめ返していると。
「何? なんか変?」
「いや……話には聞いてたけど、努力家なんだなあと思って」
「惚れた?」
その問いに玲は微笑んで返す。
「じゃ、続きやろっかな。そうしたら玲はもっとオレのこと見てくれるだろ?」
意外にストレートに表現してくる神。今まで知らなかった側面に、少し驚きつつ、わかっていたけどその引力に逆らえない。
「あ、その前に」
そういって神は玲に顔を近づけてきた。玲も軽く顎をあげ、それに応じる。2度目はちょっと長めに。神とのキスも慣れてきた。