大学編 三井

□conte 02
1ページ/2ページ


新宿駅の近くまで来たところで、ふと前方の女の子が見知った顔であることに三井は気づいた。
彼女はまったく無視しているのに、声をかけてきた男にしつこく誘われている。だがついにキレたようだ。勢いよく振り返りその男に何か言おうとしたところで、三井と目があった。

「もう、遅いっ。待ってたんだから」
「え?」

玲がニッコリしながらやってきて、三井の腕をとった。
ナンパ男は自分より10センチ以上背の高い三井を見て、ヤバイと思ったようだ。三井もすぐ状況を理解し、「何だよ、こいつ」と睨むと、男は早々に退散した。

「すいません、三井さん」玲はサッと手を離して苦笑した。

「一番簡単に引き下がると思って」
「そうだな。下手に刺激しないほうがいいもんな」

離された腕に まだ玲の余韻を感じながら三井は言った。

「帰るとこか?」
「はい」
「送っていくよ」

いいです、いいですと遠慮する玲に、また面倒が起こると藤真に怒られるとたたみかけ、一緒の電車に乗りこんだ。

「こんなコトしょっちゅうあるんじゃねーの?」
「いえ、まあ、さっきのはちょっとしつこかったですね。でも三井さんの睨みで一発退散でしたよ。スッキリした」

クスッと笑った顔を見て、三井は『あ、かわいい』なんて感想を持ってしまう。そしてそれとは別にホッとした。
この間の玲からのキスに何となく胸を痛めていたから。普通に笑う玲に少し安心した。

「聞いたことあるんじゃねーかな……?」

高校時代ケガでバスケ出来なくなってグレてた時期あって、オレの睨みはナカナカだ!と三井は不敵な笑みを浮かべた。

「聞いたことあります……」
「だから、復帰してからはそれを取り戻したくて足掻いてさ、大学行ってからもしつこく打ち込んでるわけ」
世話ねーよなと小さく笑う。

「いいじゃないですか。今の三井さんにはきっとすべてが糧になってますよ。人生、何が功を奏すかわかりませんよ? ってこの間有名な芸術家もインタビューで言ってました。彼も後悔から学んだって」
「おっ、さすが。いいこというな」

すべてが糧か。自分の原動力にはなってるなと思う。
 
「私もそのおかげで助かっちゃったし」
「そこじゃねーだろっ!」

可笑しそうに玲は笑っている。彼女にはいつもこんな風に自然に笑っていて欲しいと、三井はそんなことを感じていた。
次へ
前の章へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ