大学編 三井
□conte 02
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新宿駅の近くまで来たところで、ふと前方の女の子が見知った顔であることに三井は気づいた。
彼女はまったく無視しているのに、声をかけてきた男にしつこく誘われている。だがついにキレたようだ。勢いよく振り返りその男に何か言おうとしたところで、三井と目があった。
「もう、遅いっ。待ってたんだから」
「え?」
玲がニッコリしながらやってきて、三井の腕をとった。
ナンパ男は自分より10センチ以上背の高い三井を見て、ヤバイと思ったようだ。三井もすぐ状況を理解し、「何だよ、こいつ」と睨むと、男は早々に退散した。
「すいません、三井さん」玲はサッと手を離して苦笑した。
「一番簡単に引き下がると思って」
「そうだな。下手に刺激しないほうがいいもんな」
離された腕に まだ玲の余韻を感じながら三井は言った。
「帰るとこか?」
「はい」
「送っていくよ」
いいです、いいですと遠慮する玲に、また面倒が起こると藤真に怒られるとたたみかけ、一緒の電車に乗りこんだ。
「こんなコトしょっちゅうあるんじゃねーの?」
「いえ、まあ、さっきのはちょっとしつこかったですね。でも三井さんの睨みで一発退散でしたよ。スッキリした」
クスッと笑った顔を見て、三井は『あ、かわいい』なんて感想を持ってしまう。そしてそれとは別にホッとした。
この間の玲からのキスに何となく胸を痛めていたから。普通に笑う玲に少し安心した。
「聞いたことあるんじゃねーかな……?」
高校時代ケガでバスケ出来なくなってグレてた時期あって、オレの睨みはナカナカだ!と三井は不敵な笑みを浮かべた。
「聞いたことあります……」
「だから、復帰してからはそれを取り戻したくて足掻いてさ、大学行ってからもしつこく打ち込んでるわけ」
世話ねーよなと小さく笑う。
「いいじゃないですか。今の三井さんにはきっとすべてが糧になってますよ。人生、何が功を奏すかわかりませんよ? ってこの間有名な芸術家もインタビューで言ってました。彼も後悔から学んだって」
「おっ、さすが。いいこというな」
すべてが糧か。自分の原動力にはなってるなと思う。
「私もそのおかげで助かっちゃったし」
「そこじゃねーだろっ!」
可笑しそうに玲は笑っている。彼女にはいつもこんな風に自然に笑っていて欲しいと、三井はそんなことを感じていた。