大学編 三井

□conte 06
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「ったく、誰だよ……」

玄関チャイムが鳴ったので、だるい体を引きずってインターフォンに出ると「玲です」と返事が返ってきた。
なんで玲が? オレんちに?

玄関を開けると、本当に玲がいた。かれこれ1か月ぶりぐらいだろうか。スーパーの袋を持っている。

「ど……うした?」
「三井さんが熱出して帰るって、チームの人が連絡くれたんです」
「な…んで……?」
「彼女だと思われてますからね。三井さんの携帯から掛かってきましたよ」

それより重たいから入れてください、と玲は強引に入ってきた。

「いや、あの、玲…ちゃん、どうして?」

驚きのあまり言われるままだったが、やっと頭が回ってきたらしい。一瞬、熱があることすら忘れてたんじゃないだろうか。

「三井さんが具合悪いって聞いたから」
「でもよ……」
「病人はそんなこと考えなくていいんです。あ、誰か看病にくるっていうなら私は退散しますけど? 今、彼女いませんよね? 私に連絡きたくらいだし」

玲がにやっと笑った。はい、寝て寝てと押しやられて三井はベッドに横になった。玲は部屋を見渡して、あら、意外と健司の部屋よりキレイかも、なんて言っている。

「突然押しかけついでに キッチン借りていいですか?」
「……ああ、もちろん」

体温計で熱を測りながら、玲の後ろ姿を何となく目で追った。
──実際 熱を測ってその数値を知ってしまうと、とたんに辛さが増すから不思議だ。

「38.5度 かなりですね……」
「だりー」
「そりゃそうですよ。けど食べないと。少し体起こせます?」

背中に手を差し入れ上半身をおこして、トレイを置いてくれる。さすがに食べさせてはくれないか、と三井はほんの少しがっかりした。

「ウマい……」
「でしょ? 病気の時はウチではいつもこれです」
「へえ……」
「母が料理の講師なんです。いちおう、その娘ですからね」

あ、何か藤真がそんなこと言ってた気がする。何だよ、彼女だったら最高じゃねえか……と病人のくせにまた考えがそっちにいく自分に苦笑いしてしまう。薬も飲まされ、またベッドに横になった。

「大きな体してても、熱出して寝てるときって子供みたい」

三井の掛け布団を直しながら、玲はクスッと笑った。

「具合どうですか?」
「まだフラフラするけど……だいぶいい。ありがとな」

確かに、少し食べたことでぐっすり眠れそうな気がする。

「良かった。ホントの彼女じゃなくても、こういう時は甘えていいんですよ」

そう、こういう時は誰かがいてくれるってだけで、何だかとても安心する。でも、もう玲は帰ってしまうのだろうか──


「なあ…甘えていいって言ったよな……?」
「ええ」
「…もう少しいてくれねえか……?」

少し照れくさそうに三井は言った。玲はニッコリ笑いながらベッド脇に座った。

いつもオレ様な三井さんだけど、本当に大きな子供みたいでかわいいかも―――
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