あれから5年後

□conte 06
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なんで最初に言えなかったのだろう……


Conte 06

「今日、俺も仙道彰に会ったよ」

電話で良かった。きっと必要以上に驚いてしまっているに違いない。ふたりが顔を合わせることがなければいいという一方的な願いはむなしく砕け散った。

「かっこいいよなー。仕事柄スポーツマンに会うこと多いけど抜群だな。あ、藤真くんとは違った魅力で」
「健司は女性ウケいいだけだよ」

何とか言葉を返す。

「女性は大事なスポンサーだ! それに藤真くん、話すと男らしいし、玲が思ってるより男性支持あるんだぜ?」
「男らしい?……私には超意地悪なんですけど」
「俺は玲と藤真くん、似てると思うけどな。何となく」
「それ、よく言われるけど、嬉しくない」

都合よく藤真に話が反れたと思ったのに……「来週、仙道くんの撮影があるんだ」とまた仙道の話題に戻ってしまった。

「でもその日、俺、別の打ち合わせが入っちゃったんだよ。見に行きてえのになー」

それを聞いてホッとしている自分がイヤになる。彼は残念がっているのに。胸の奥に小さな痛みを覚える。

そもそも……仙道を以前から知っているどころか、彼がアメリカ行く直前まで付き合ってましたと言えない自分。

最初に仙道の名が出たとき、言えばよかった。彼はそんなことで不機嫌になったり、無為な嫉妬をしたりしない。

仙道と仕事で関わるのに、何もそんな事前情報入れたくないと思ったから?
事後のがもっと悪い。それに、奥田はそんな男じゃないとわかっているではないか。

自分自身が一番わからなくなる―――


それに比べて、先日会った仙道は変わっていないという印象をうけた。さらに強健な体つきになっていたが、その柔らかい眼差し、一種独特の雰囲気は相変わらずだった。

映像でなく、リアルに目の当たりにした仙道。錯覚を起こしそうになった自分を、慌てて引き戻した。仕事という大義名分のおかげで、何とか立て直せた。

動じることはないなんて言っていたくせに、ここのところひどく調子が狂っている……
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