あれから5年後

□conte 08
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気まぐれ? 衝動? 自分でもなぜそんなことをしたのかわからない。

 
Conte 08

お酒が入ってくると、マネージャーは玲と彦一に、チームの中でもこのふたりの世話が大変だとこぼした。この話を聞いて欲しいから飲みに行こうなんて言い出したんだなと、当の本人たちは理解する。

「藤真の恥ずかしい話とか何かない? 子供のころとかさ。もうネタ握って操縦しないとね」
「あ、それは健司の得意技ですよ?」

それを聞いて藤真は彦一に耳打ちした。

「あいつは仙道のことのが良く知ってるのにな。弱点のひとつやふたつ……」
「わいは玲さんが仙道さんの弱点や、思おてましたわ」
「あ、それ前に誰かも言ってたな。ま、楽しく飲もうぜ?」


さきほどまでの仕事モードから離れて、玲もだんだん今の状況に慣れてきた。彦一がいてくれるのがとてもありがたい。 口を滑らせないか少々の気がかりはあるものの、彼がこの自分にとっての微妙な場を和ませてくれている。
もう、なんでいるのよーと思ったことを申し訳なく、また、変わらない彼のキャラクターを微笑ましく思った。硬かった表情も心なしか明るくなってきた。

そんな玲を見て、仙道もやれやれと胸をなでおろす。明らかにずっと身構えられていたから。
やっぱ玲はこうでなくちゃな──


話の内容に気を遣うシチュエーションだったが、昔に戻ったように楽しく過ごせた。思わず『玲』『彰』と呼ばないように意識さえしていれば、問題はなかった。
だが、そこで玲は自身の携帯の震えに気付き、チラッと見た彼女は一瞬目を見開いた。けれど、それは仙道しか気づかなかっただろう。玲はちょっとすみませんと、店の外に出ていった。

ややあって、仙道も「オレもちょっとトイレ」と、立ち上がった。
すき焼き食いてえって話から、肉を割り下で煮るか、焼いてから煮るかについての議論に藤真たちは夢中になっていて全然気づかなかった。


仙道が戻ろうとすると、まだ玲の姿はない。自分も店の外に出てみた。

玲は壁にもたれて立っていた。その向こうはガラス張りになっており、立ち並ぶビルの明かり、街のネオンが煌々と光りそちらをぼんやり眺めている。
そっと近づいて「玲?」と呼ぶと、ハッとしたように壁から背を離し、照れたような笑みを見せた。

「電話、彼氏から?」
「……うん、そう」
「大丈夫? 心配してるんじゃねえ?」
「ん、そういうんじゃないから」

誰といるのか? どこにいるのか? そういうたぐいの電話じゃない。奥田はそういうことを言ってきたことはない。何か特段の用があったわけではなく、普通に自分の彼女に電話してきただけ。
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