あれから5年後

□conte 09
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思わず「彰」とその背に呼びかけた。
声が震える。


Conte 09

店内に戻ると、藤真たちは食べ物議論の真っ最中だった。さも今の電話で呼び出されたかのように、用が出来たと告げ、玲はその場をあとにした。
その背を見送りながら「彼氏かなー」とマネージャーがニヤニヤを隠さずに言う。

「玲さん、彼いてはるんですか!?」
「そりゃあ、いるだろうよ。なあ、藤真?」
「いますね……しかもこれが文句つけようがない男でさ」

もちろん、彦一も仙道がアメリカに行くときに2人が別れたことは知っている。その後、今回の帰国まで一度も会っていないらしいことも。だが、今日のふたりを見て「要チェックや!」と感じたのに。
仙道さんでもうまくいかないことはあるんや……と心の中で呟いた。



玲が荷物を手に店を出ると、今度は仙道が背をむけて、ガラスの向こうの東京の街をじっと見下ろしていた。
久しぶりに見る仙道の後ろ姿。凍り付いたように身動きひとつしない。その大きな背中からは、物憂いけだるさがじんわりと伝わってくる気がした。

今の今まで、仙道と顔を合わせずに立ち去ることばかり考えていた。でもそれでいいのか? 次に会う約束なんてない。こんな気まずいままで別れたら後で後悔する。

「彰……」

名を呼ぶと、肩がピクリと動き、重心をうつしかえるように仙道は振り向いた。

「ごめん、今日は先に帰る」
「ああ」

だがそれ以上の言葉が出ない。じゃあ、とエレベーターに向かって歩き出すと、今度は仙道に呼び止められるではないか。

「玲、リーグ始まったら、良かったら見にきて」

小さく笑って、うんと頷いた。
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