あれから5年後

□conte 10
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「芹沢さん」と自分は口にした。
彼は「玲」と呼ぶ。



Conte 10


ロッカールームで藤真が声かけてきた。

「あのCM見たぞ? ムカつくほどの出来だな。あれは撮影技術がスゲーんだな」

案の定のコメントに、仙道は苦笑いした。

「知ってます? 藤真さん。その制作サイドに玲の彼がいますよ」
「は? そうなのか? ……なんでそれおまえが知ってんだよ」
「ちょっと、偶然に」と仙道は肩をすくめる。

藤真は試合を観に来た玲に奥田を紹介されたことがある。彼の仕事は代理店の中でも、オリンピックを含めたスポーツイベントや、選手と広告クライアントを結びつけたりとか何とか…と聞いたが。
まさか……その選手のひとりが仙道なのか? いやな偶然だなと思う。

「それで? おまえ、どう思った?」
「いや、カッコイイ人だなーと」

そういうことじゃねぇと突っ込みたいのを我慢した。どうせまともな返事は返ってこない。はぐらかされる。というより、仙道自身どう言い表せばいいのかわからないんだろう。

お互いを縛り付けたくないと別れた彼女。5年たって再会したら、彼女には恋人がいる。そんなことはわかりきった想定内だろうが、いくら仙道でも、いい気はしねーだろうなと想像する。
ふと気づくと、もう自分と仙道が最後だった。

「仙道、飲みいくかー」
「何ですか、ソレ」
「銀座あたりでぱあーっと」
「藤真さん、それどこのオヤジですか?」



噂をすれば影――― その言葉を実感する。それか、いやな偶然は続くものなのか……

新橋寄りの中央通りを歩いていると、「藤真くんに仙道くん」と呼び止められた。やっぱり目立つね、と声かけてきたのは、奥田だった。

「仙道くん、俺のことわかるかな? ポ○リのCMの顔合わせで会ってるんだけど」
「もちろんですよ、奥田さんですよね」
「覚えててくれて光栄だな。会社、この近くなんだ」

場所のセレクトを間違えた……と藤真は後悔した。そして自分も奥田と挨拶すれば、仙道が素知らぬ顔して、「あれ? お二人もお知り合いなんですか?」なんて言うから仕方なくその芝居にノッてやった。
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