あれから5年後

□conte 11
1ページ/2ページ


何かの間違いなんじゃないかと
自分をごまかす気持ちがあった。
だが、オレが支えるまでもなく、
彼女の隣には彼がいた。


Conte 11

京風のおばんざいがうまいんだと連れてこられた店は、銀座の喧騒から少しはずれたビルの3階にあり、間口はさして広くはなかったが中は意外と奥行きがある、家庭的な雰囲気の小料理屋だった。

予想もしなかった4人で乾杯をする。社内でもあのCMの評判すっごくいいよ、とさっそく奥田は仙道に話しかけた。

「作品自体もだけど、仙道くんが嫌な顔せずいろいろやってくれたってスタッフもべた褒めでさ。スーパープレイヤーなのにちっともおごりがなくて、感じがいいって」
「昔からそういうヤツですよ」と藤真が言った。

「昔って、藤真くんはいつから仙道くんのことを?」
「あー、高校からですね。試合で顔合わせるぐらいでしたけど……」

へえ、じゃあライバルだったんだ、と奥田は腑に落ちたようだ。
顔合わせるぐらい? とんでもない、下手したら将来こいつが親戚になるかもって思った
ぐらいだぜ……との言葉を藤真は飲み込んだ。

「あの担当の後輩、相当舞い上がってたよな。あの後も調子に乗ってなかったかい?」

玲も一度会ってるんだけど覚えてないかな? そいつが仙道くんのファンでさ、と少し顔寄せて説明する。
玲も奥田に目線を上げた。というより、仙道の視線を感じてとにかくそれから逃れるために、隣の彼に相槌をうつ。それしかできない。


一方、仙道は勧められるままに、料理に箸をつけた。向かいに座る彼は彼女を「玲」と自然に呼ぶ。その声が耳に残る―――

先日、玲の彼が奥田だと知って、嘘だと打ち消す気持ちとともに妙に合点がいったのも確か。たった一度会っただけの彼を覚えていたのは、第六感のようなものが働いたのかもしれない。そして、今は目の前のふたりに不思議な既視感を覚えた。
次へ
前の章へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ