あれから5年後

□conte 16
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あの場所に行きたいと思うこと自体が、
すでに答えだったのかもしれない。
けれど―――
魔法はとける。
夢はいつか覚める。


   Conte16

「やっぱ、さみーな。海は」
「釣れない釣りに付き合わされてないだけマシ」

懐かしい地は、かつての思い出をスラスラと語らせる。でもあのころは寒いと言い合うふたりの距離はゼロだった。仙道が抱きしめてくれた。

「彰がいないと、皆、よくここに探しに来てたよね」
「その前に玲のところに寄ってるって聞いたけど?」
「あ、そうそう、コッシーが仙道知らねえ? って聞くから知らないって言うと、じゃ、次はここかって」

玲もここに来るのは卒業以来。
特に仙道がアメリカに行ってから、ひとりで来る気にはなれなかった。国道沿いは整備されたり、新しい店が出来ていたりと、この5年間の経過を感じさせるけれど、ここから見る海側の景色はあの時のまま。

そして、今、隣に立つ仙道。見上げる時の角度も、垣間見えるその横顔も、じっと水平線を見つめる視線も何ら変わっていない。
時々自分を見下ろしてくる優しい笑顔の中に、ほんの少しばかりのためらいを感じるけれど。でもそれは自分も同じ。今の仙道との距離をどうとっていいかわからない。



「あれから……玲も真っ直ぐ進んできたんだな」
「真っ直ぐ?」
「だから取材しに来てくれた」
「……うん」
「あの夢さ、心の支えだったんだ」
「………」

その話は、この場所以上にヤバい。ふたりの記憶が一致したように、気持ちまであの時に引き戻されそうになる。

どうしよう―――

玲の目が困り果てたように宙を泳いでいると、それを察したのか仙道がふっと笑う。これからも玲は真っ直ぐにしか進めねーんだろうな、とボソッと言うのが聞こえたかと思うと、学校行ってみようぜ? と歩き出した。
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