あれから5年後

□conte 17
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あとで気づいた。
玲の手袋の片方を自分が持ったままでいることに。


Conte 17

「……どうして……」
「実家に行ったら、玲は高校に行ったって聞いてさ、迎えにきたんだけど?」
「いや、あの、驚いて……」

奥田は顔を上げて仙道を見ると、「どうも」と言った。仙道は軽く頭を下げた。

「仙道くんも送るよ」
「いえ、友達の家、ここから近いんで」
「そうか、じゃあ、また」

玲の肩を抱くように助手席に促した。

「あ……仙道、ありがと。じゃ、行くね」


坂を滑り降りていく車を見つめながら、仙道は夢から覚めた気分だった。この2時間あまりは夢だったのだろうか。そして覚めてしまった今、言えるわけがない。行くな、なんて―――
さっきまで玲の手を握っていた左手を見つめた。





昼、食べて行かないか? と奥田が言う。パーキングに車を停めて、そこからほど近くのビストロに入った。

「知ってたんだね……同級生だって」
「ああ、つい最近……ついでに元彼だってことも」

そっか、と玲は顔にかかる髪を耳にかけながら俯いた。奥田は肘をつき軽く顎をのせ、そんな玲をじっと見つめながら言葉を続けた。

「玲に忘れられない人がいたのは……わかってたよ。付き合う前から」
「なんで…そんな話初めて……」
「だって、聞いたら思い出すだろ? いつか…玲から話してくれたら、と思ってた」
「……ごめんなさい」

それは結局、自分から話されることはなかった。その相手に再会してからも。言えば良かったと後悔していただけ。時間の経過、状況の変化とともに余計に言えなくなっただけ。

「謝るなよ。言えなくなってただけだろ?」

自分の言い訳が聞こえていたのかとハッとする。うん、と頷くけれど、その表面的な言い訳とは別の理由もあることも……玲はうっすらと感じていた。

忘れられない元彼と一緒にいた自分に、笑みを向けてくれる目の前にいる優しい彼。彼にその別の理由を話さねばならない日が来なければいい。
けれど仙道の手を離したくないと思った自分には、どんな言い訳をしたらいいんだろう。

心が揺れる。
真っ直ぐ立っていられるか、自信がない。
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