あれから5年後

□conte 18
1ページ/2ページ


いちど失ったから、手離したからこそ……わかった


Conte 18

正月明けの最初の試合は大阪で。日曜は神が観に来てくれた。待ち合わせて3人で飲みにいくと、開口一番、神がふたりのインタビューコラムを読んだと言う。

「あれ、女性向けファッション誌だよな? なんでおまえがそんなもの見るんだよ」
「会社の女の子に見せてもらったんですよ」

それより、好きな女性のタイプをよりによって玲ちゃんに答えたんですね、と神がおかしそうに突っ込んできた。やっぱりそこかと忌々しい。悔し紛れに藤真は先日の銀座での一件を話した。


「それで仙道は自分の本心がわかった?」
「うわっ、神、ストレートだな。オレは突っ込めなかったぜ」
「今だから聞けるんですよ。仙道も整理ついてると思うし」

さすが神、と仙道はごまかそうとするが、それこそ神には通用しない。
テーブルに頬杖をつき、反対の手のピルスナーを眺めながら仙道はポツポツと答えだした。5年前から何も変わってませんよ、と。


「変わってないってことがわかった、って感じですかね」
「おまえ、アメリカでは女いなかったの?」
「んー、いたような、いないような……?」

なんだそれは、とふたり呆れた。きっと仙道はそう思ってなくても、女の子のほうは恋人のつもりだったんだろうな、と何となく想像できる。とにかく玲以上に踏み込める相手はいなかったわけだ。

「そもそもオレはバスケのために向こう行ったんですからね、それでいいと思ってました」
「ました……?」
「でも、欲が出たんですよ」
「欲? なんの?」
「何て言うかな……バスケだけじゃ満足できなくなってたんです。何か物足りない。このままでいいのかって迷いが生じてた。そこにちょうど牧さんが声かけてくれたんですよ」

それがあの年俸を捨ててきた本当の理由か。藤真はもったいねーって言うが、神は仙道らしいと感じた。
そもそも仙道が自分のことをこんなに話すなんて珍しい。試合後の高揚感? そしてここがアウェーな土地であるからだろうか。それとも……もうどうしようもないのか?

「もっとおもしろいこと教えましょうか。奥田さん……玲の彼、オレと玲が付き合ってたこと知ったと思います」

(あ、どうしようもないが正解かな……)

何だそれ、ホントか?と藤真が食いついてきた。またこの玲の彼がいい男でさ、と神に説明する。神は藤真が褒めるなら本当にそうなんだろうな、と奥田という男に興味をもった。
次へ
前の章へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ