あれから５年後
□conte 19
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すべてを手に入れるのは難しいと彼女は言った。確かに同時にはムリだ。
ひとつづつ、たぐり寄せたい。
Conte 19
寒い日だと思ったわけだ。
カウンターに座っていたのでわからなかったが、ふと店の外に目をやると、さきほどまでの冷たい雨が雪に変わっている。羽毛のような軽やかな雪がひらひらと舞いおりてくるのが見える。積もらないうちに早めに帰った方がいいかもしれない。
でもその前に言っておいた方がいい話がある。玲は膝を隣に座る奥田に向けた。
「来週、撮影で健司のとこの体育館に行くことになってるの」
「何の撮影？」
「ほら、3年前のア〇ックスのリメイク版作るって。12月にこの仕事受けちゃってて……」
藤真のところへ行くイコール、仙道と顔を合わせる可能性があるので話しておこうと思った。その意図は奥田もすぐに察したらしい、にっこり笑いかけてくれる。
「リメイクか。新作にして夫婦設定にすればいいのに。子供も作ればキッズのプロモもできるしさ」
「もう、制作視点でしか考えないんだから。そんな息の長い話にしないでよ。それに本当に結婚したんですか？とか聞かれて、否定するのめんどくさいんだから」
「やっぱり当時は勘違いされたわけ？」
とにこやかに会話をしながらも、一方ではその時の玲の本当の彼は仙道だったのだろうかなんて奥田は頭の隅で考える。
でも、玲はこうして遠回しでも話してくれるようになった。こうやって少しづつ消化して吸収していければいい。
「春の新作発表用か。まだこんなに寒いのにな」