あれから5年後
□conte 20
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そこから目をそらすことで、何とか自分を
支えられそうな気がした……していた。
気が付いてしまったら、そこにしか進めなくなるから。
Conte 20
もっと温まってから帰ったほうがいいんじゃない?と言われたけれど、あまり留まりたくなくて、適当な理由をつけて出てきた。
もう薄暗い時間。氷のように透き通った風がもともと冷えた体に吹き付け、心にまで届く。雨も降りだしそうだ。
俯きがちに歩きだそうとした時、軽いクラクションの音が辺りの空気をふるわせた。振り向き目に入った車を見て、誰だかわかった。
「玲、お疲れさま」
「……CM見てるみたい」
ラフなかっこうをしているが、車のCMそのままに運転席から降りてくる仙道に玲は思わず感心する。
「ハハ、乗ってくださいって言うからさ、ありがたく頂いたってわけ」
「彰らしい」クスッと笑った。
「これ返したくて」と差し出された手袋を、玲はありがとうと受け取った。
わずかに指先が触れる――― と、そのまま仙道に手を掴まれた。
「冷てえな。なんで……?」
その温かな感触に自分の手が冷たいことを知った。
「春物の撮影だったから」
「乗れよ、送ってく」
「え、いいよ」
手を引き抜こうとするが、仙道が離してくれない。大丈夫だからと押し問答をしていると、背後から人の声がしてきた。撮影隊が帰るところらしい。
「こんなとこ見られたらスキャンダルってやつ? カメラもあるみてーだし」
「だから離してっ」
「玲が『うん』って言ったら」
「わかった、わかったから!」
そのまま少し下がり建物の影に身を置くと、ちょうどスタッフたちが談笑しながら通り過ぎていった。
溜息混じりに仙道を見ると、いつものようにニッコリ笑っている。こういうところはかなわないと思った。
まだ新しい匂いのする車内。助手席のドアが閉められてからしばらくして、仙道が乗り込んできた。その手には缶コーヒー。
「ありがとう……」
渡された缶を両手で包むと、冷えきった手にその熱がジワジワと伝わってくる。浸みわたってくる。
やっと指先まで血が通ってくるようなその感覚は、少し心を落ち着かせてくれたけれど、一方ではその温もりに飲まれてしまうような戸惑いがあった。
玲がシートベルトを締めると、ゆっくりと車は滑り出した。