あれから5年後

□conte 21
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触れた瞬間に心は決まった。


Conte21

首都高が頭上を走る大通りから、閑静な住宅街を抜け、両側に並木の続く通りに出た。
冬のこの時間はもう真っ暗だが、桜だとわかる。雨に濡れたその枝は寂しげだが、春になれば咲き誇り、今のこの景色を一変させるのだろう。そのわきに仙道はふいに車を停めた。

「これ桜だよな? ずっと見てねえってことに今気づいた」
「今年は見れるよ。あ、でも思いっきりシーズン後半の大事な時かな」

仙道の口元は少しばかり上がったが、その顔はちっとも笑っていない。中途半端な沈黙が落ちた。

「大丈夫?」
「何が? ああ、バスケ?」
「違う、今度は彰」

玲が再び口を開きかけた時、玲の携帯の振動が鼓膜を振るわせた。それは車内に静かに伝わり、一瞬にしてこの微妙な空気をさらに脅かす。光る画面は発信者の名を映し出していた。

「電話…出ないでくれ……」
「彰……?」
「出るな」

そういう仙道の声は深くよく響いた。自分のどこにこんな感情があったのか。こんなことを言う権利なんてないのに。ハンドルに片手をかけたままじっと雨に濡れるフロントガラスを見ていると、じきに携帯の震えは止まった。

「……悪い」
「……大丈夫」
「また心配させちゃうな」
「クラブの練習場に行くこと、自分から話してあるから」
「じゃ、なおさら心配するだろ」
実際、玲は自分といる。

「ううん、信頼されてる」

信頼── そう言われては手も足も出ない。身動きとれない。またやんわりとブロックされたと仙道が思っていると、「だから辛い……」と玲が力なく言った。

「だって自分で自分が一番信じられないのに。どうしても気持ちが揺れる……。彼のことを好きだけど……彰を忘れられなかった……」

わずかに寄せられた眉の下で、苦し気に玲の目が伏せられた。
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