あれから5年後
□conte 23
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早朝の電話は奥田からだった。
なぜか玲の携帯から。
Conte 23
朝早い時間の病院のロビーにはほとんど人の姿がない。受付に声をかけてから教えられた処置室に向かうと、その前の廊下のソファーに奥田が座っていた。
ひどい顔色をしている。藤真に気が付き、朝早くに申し訳ないと頭を下げた。
「玲は?」
「今は寝てる……家族に連絡するって言ったら玲が藤真くんにしてくれって」
とにかく中に入ると玲は寝ていたが、人の気配に目が覚めたようだった。その頭には白い包帯。
電話で聞いたのは、頭を打って出血して病院に駆け込んだとのことだったが。
奥田が口を開いた。
「場所が頭だけにCTスキャンも撮ったけど問題なしだそうだ。ただ血圧がかなり下がっているから、目が覚めても少し寝てた方がいいって」
「そうですか。すみません……でもなんだって」
「俺が玲を突き飛ばしたんです……」
それを聞いて、玲が「違うっ!」と体を起こそうとしたが、起き上がれずにそのまま枕に頭を沈めた。
「違う……奥田さんは私の手を払っただけ…… 」
「でも俺は!」
「私が違うって言うんだから! あなたは何も悪くない!」
わかったからと藤真は玲を抑えた。
とにかくよろけた先のテーブルの角に頭を打ったらしい。突き飛ばされたからなのか、手を払ったからなのかはこの際どちらでもいい。ただ、その前に2人の間に起こっていたことはだいたい想像がつく。何も言われなくてもそれだけで充分。
「もう大丈夫だから。言ったとおり会社に行って」
「わかった。夜に連絡する」
藤真も一緒に廊下に出た。奥田の謝罪の言葉と深々と頭を下げるのを制し、「場所が悪かっただけですよ」と微笑んだ。
「藤真くんは時間……」
「練習は午後からなんで大丈夫です」
じゃあ、と奥田は少し言いよどみ、ポツリとひとこと発した。
「──いいんですか?」
その返事は藤真がほとんどのことを察していることを悟らせた。奥田は機械的に笑みを浮かべた。
「今はそれしか俺が玲にしてあげられることはないから」