あれから5年後
□conte 24
1ページ/2ページ
そっと私を後部座席に下ろして、
「おとなしく座ってろよ?」と言った。
Conte 24
病院特有の消毒液の匂いに、目を閉じてもここがどこかわかる。扉をノックする音。仙道が心配そうな顔をして入ってきた。
玲が何か言おうとするのを遮って、藤真が説明した。
「よろけたときにテーブルで頭打ったんだと。人騒がせな!」
「……ごめんなさい」
藤真は理由を伏せてくれた。というより、今ので正しい。
ただ、どこで誰といたか、その直前に何を話していたか……それがあるとないのとでは大違いだなと玲は回らない頭で思う。
「驚いたよ……」
「ごめん……」
手続きしてくるという藤真を仙道は追って出た。
「藤真さん、迎えに来いってオレでいいんですか?」
仙道の言いたいことはわかる。
気にしていることもわかる。
「悪ぃけど送ってやってくれねーか? オレ、用ある……」
「それはもちろんですけど」
「オレがいいって言うんだから、いいんだよ。よろしくな」
仙道が処置室に戻ると、玲は起き上がろうとしていた。背中を支えてベッドに座らせてやると、ありがとうと小さく答える。
頭の白い包帯が痛々しい。
「どう? 痛むか?」
「大丈夫」
「送っていくよ」
「平気。タクシーで帰るから」
だがいざ立ち上がろうとすると、膝がカクンと折れた。
「玲……言うこと聞かないと無理矢理連れていくよ?」
先日の例もある。仙道ならやりかねない。慌てて従おうとするも、その前に体がふわっと宙に浮いた。軽々と抱き上げられた。
「言うこと聞きます、聞きますって!」
「もう遅い」
「こんなの人に見られたら!」
「なんで? ケガ人運んでるだけだろ?」
すれ違う人はほとんどおらず好奇の視線を浴びずにすんだ。が、ロビーのカウンターで事務の女性とやりとりしていた藤真はついていた肘をガクッと落とす。
「重病人扱いだな」
「一人で帰るとか言うんで。あ、すみません、玲のコートと靴、持ってきてもらえますか?」
「……オレは下僕かよ」
それが聞こえた事務の女性は「あなたも王子様みたいよ」と言ってくれた。藤真はニッコリ笑みを返した。
(オレ、年上キラー? ってどうみても母親ぐれぇだな……)