あれから5年後
□conte 25
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遠回りして見つけたものもある。
していなければきっと知らないまま。
ただそれだけのことだけど……
Conte25
その週末―――
あれから初めてまともに奥田と顔を合わせた。あの日も仕事帰りに寄ってくれたが、ケガの話だけしかせず15分もしないうちに帰っていった。
「包帯とれたんだ」
「傷口乾いたから」
「ホントにごめん……」
「もう、いい加減にして。あれは事故だって」
笑ってこたえるが、顔はちゃんと笑えてるだろうか。本当に謝るべきは自分のほう。でもきっと奥田は自分に謝って欲しくはないと思う。
淹れたコーヒーのいい香りが2人の間に広がるが、そこに漂うのは決して和やかとはいえない雰囲気。もちろんケガのせいではない。
「健司に頼んでくれたんだってね……」
奥田は曖昧な笑みを浮かべた。
「……どこかで……こうなるとわかっていたけど、見て見ぬフリしてた。あの日病院の廊下でずっと考えてたよ。俺はどうするべきか……」
そのまま奥田の次の言葉を待った。自分の気持ちはあの時にすべて話した。「もう聞きたくない!」と手を払われ中断したが、あれがすべて。
「どうしたら玲の気持ちを取り戻せるのか、やり直すにはどうしたらいいのか、必死で考えた」
カップに口をつけながら、奥田はチラッと視線だけ上にあげ玲を見ると、プッと吹き出した。
「何だよ、そんな顔して。それって傷つくなあー。また青ざめてないか?」
病院連れていくぞ、と今までになく少し晴れやかに笑った。
「俺は……承諾するよ」
「……承諾?」
「そう、受け入れる。玲、別れよう」
結局、さっきの問いの答えが見つからなかった。そして言葉にはしなかったけれど、今でも彼女を好きだから……だから別れる。
締め付けられた感情に足をとられたように身動きとれなくなったが、それでも何でもないフリはできない。
相手も自分を求めてなければ2人の関係は成立しない。だから、別れを受け入れた。
しばらく酒と仕事でやり過ごすか―――
時間が解決してくれるだろう。