あれから5年後
□conte 26
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以前、玲との電話で口走ってしまいそうになったこと。
「もしオレが優勝したら……」
Conte26
プレイオフ進出を確実に決めた4月末。
スポンサー企業の創立記念のパーティーに呼ばれ、チームの幹部と藤真と仙道がかりだされた。
「笑ってりゃいいだけなんだから、こーいうの得意だろ?」
「ひどいなあ、藤真さんだってこーいうときは愛想いいじゃないですか」
とはいえ、この手の場は面倒くさいだけ。
ひと通り挨拶し、話しかけられればそれに応じ、最後は体調管理を言い訳に一足先に失礼しようと思っていた。
人より頭ひとつ抜きん出ているので、藤真が年上の女性たちに囲まれているのがよく見える。ほら、あんな笑顔作っちゃって、とグラスを片手にぼんやりと眺めていると、「仙道くん」と声をかけられた。
「奥田さん……」
「お、初めてみたなあ、仙道くんのビックリした顔。試合中は表情変えないのに」
ちょっとイジメ入ってるか? と彼は笑った。
会場の片隅。ちょうど通りかかった配膳係のトレイから奥田はビールを手にすると、背後の壁に背を預けグイッとあおった。
「……玲、元気?」
「それは藤真さんに聞いたほうがいいですよ」
「え、まさか会ってないのか?」
「そのまさかです」
「………」
仙道と玲がうまくいっていれば、それはそれで複雑だし多少の妬ましさはある。かといって会ってもいないともなると、何を遠慮してるんだ、サッサとくっつけよと思う。
勝手なもんだ。でも玲が幸せならいい。もはや父親の心境に近いかもしれない。
「彼女がケガしたの知ってますよね? 最後に会ったのはあの頃かな」
「知ってますよね?って、俺は玲にケガさせた張本人だよ?」
「は?」
さきほど以上に仙道の顔が驚きに変わる。本当に知らないらしい。奥田はむしろ可笑しくなってしまった。
「まったく、玲も藤真くんも困ったもんだな」
別れ話中に自分が玲を突き放したときにあのケガをしたんだと彼は言った。だから朝までは自分も病院にいたんだと。
知りませんでした、と仙道は目を見張り奥田を見つめた。
「最低だよな……」
「いや、事故ですよ」
それを聞いてまたフッと奥田は笑った。
「最後くらいいいところを見せようと、いい男のフリして別れを受け入れたんだから、後悔させないでくれよ」
何かの『フリ』、よく聞くセリフだなと仙道は思った。分かってるフリ、平気なフリ、大人のフリ。そうやって『フリ』をするからもつれてかみ合わないんだ。
「奥田さんは『フリ』じゃなくていい男ですよ」
「そう言ってくれるなら、後はどうにかしてくれるんだよな?」
「わかりました……優勝したら玲を迎えにいきます」
「そうだな。じゃ、いい結果を……と言いつつ準優勝を願っとこうかな。あー、すげえ矛盾!」
「ハハ、かないませんね、奥田さんには」
よく言うよ、という言葉を残して奥田はまた人の輪の中に戻っていった。