あれから5年後

□conte 28
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すべてが仙道ペースで進んでいく
それに流されるのは心地よく
そして何ともいえない安息を感じる


Conte 28


日はすでに傾き、夜の暗さに変わっていた。
車は東名高速を下っていく。

「どこ行くの?」
「そんな遠くには行かないよ」

その言葉通り、厚木ICで高速を乗り換えて小田原で降りた。
もう遅いからと街中で夕飯を済ませているときも、仙道はこの数日間のハードさを語るだけで、このあとどうするつもりなのかについては口にしない。
何を考えているのか──

また乗り込んだ車は、そこから15分ほどの小高い丘の上のホテルに寄せられた。
『ヒ〇トン小田原リゾート』

チェックインを済ませた仙道が戻ってきた。

「さ、いこーか。10階だって」

ご機嫌でエレベーターに乗り込んでいく仙道に対し、もうここまで来たらと玲は半ばヤケになって従う。

「はい、これね」と玲にカードキーを渡し、俺はこっちと手前のドアを自分で開け、玲はあっちと奥のドアを指さした。

「あっち?」
「何? 一緒の部屋がいい?」
「そ、そういう意味じゃ……」

焦る玲に仙道は懐かしそうに顔をほころばせた。
いつも強気な彼女が、2人だけのときに時折見せる意外な面が自分はかわいくてしょうがなかったことを思い出し、そして今もたまらなくそう思う。
諦めて大人しく付いてきていた玲がここにきて慌てる様子に、思わず引き寄せたくなるが、何とかその手を抑えた。
部屋、別にして正解だな──とひとりほくそ笑む。


5年という月日がふたりに少なからず隔たりを作っていた。少しづつそれを縮めていきたい。変わらぬものをお互い心の片隅に持ち続けていた、それを繋ぎ合わせたい。
今までは思いとどまってきたが、今ならそれが出来る。
そう、慌てることはない。


玲も部屋に入った。
白い壁紙に真っ白いシーツのベッド。バルコニーがついているが、もう外は暗く何も見えない。でもその街の明かりのない真っ暗さが、目の前は海なのではないかと想像させた。

ひとりには広すぎる部屋。すぐ隣に仙道がいるが、壁一枚隔てた向こう。だが今までからは考えられない近さだ。
海の向こうだった物理的な距離、そして帰国してからも簡単に心寄せることが出来なかった状況からは格段の相違。
それから考えたら……少しずつ近づいていきたい。
その時部屋のベルが鳴った。

「上のラウンジ行かねえか?」

うん、と玲はカーディガンを羽織った。
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