続・5年後

□Fruits de mer
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流れるように降り過ぎていった夕立に濡れたアスファルトの道を歩きながら、玲は助かった……と思っていた。こんなに重たい発泡スチロールの荷物を持っていては、傘などさせない。

藤真と仙道は早くても9時近くなると言っていた。いちど帰って置いてから、また買い物に出直そうと頭の中で時間の計算をする。しかも今朝一瞬帰宅したとはいえ、2、3日前に飛び出していったままなので、片づけから始めなければならない。怒涛のごとく過ぎた数日間だった。
短い休暇も終わり、早朝から出かけていった仙道。その時にスペアキーを渡された。高校時代を思い出す。けれどあのころとは違うタワーマンションの風景が月日の経過を実感させた。

ほぼ宣言通りの時間にふたりはやってきたが、「はい、これお土産」と買ってきたビールを差し出すやいなや飲み始めるではないか。

「あーー、疲れた。慣れねえことは疲れんな。練習のほうがよっぽどいいぜ」
「そうですか? オレは練習のほうが疲れるなあ」

藤真が心底いやそうな顔を仙道に向ける。

「身も心も満たされてると、疲れを感じねえんだろうよ? なあ、玲?」
「さあ? それより見て、このイカ、美味しそう!イカ刺しとフリットにしたよ。ホタテもこっちはバジルソースで」

玲もビールを開けた。正直、寝不足なので今日はアルコールのまわりが早そうだ。

「旨い! って素材がいいんだな」
「そりゃ、そうだけど、ワタ抜いて皮むいたのは私ですっ!イカは簡単だけど……」

目の前で藤真と仙道が何やかんや言いながら、自分の作った料理を食べている。少し前からは考えられなかった光景。静かな喜びがわきあがってくるのを感じる。
藤真が自分の家に来るのも相当久しぶりだ。社会人になりお互い忙しくて少し疎遠になっていたが、姉よりも気が合うくらいだと実は思っている。こんなこと口が裂けても言えないけれど。
仙道がテーブルのわきに玲が載っている雑誌を見つけ、パラパラめくりだした。

「これ、この間コンビニで藤真さんと立ち読みしたよ」
「ヤダっ、男ふたりでこれを?」

そして、この子が好みだってさと仙道が指さすと、藤真が「違ぇ、それは服の好みで、顔ならこっちだな」と別のページを示した。

「へえ、健司ってこういうタイプが好きなんだ。でも残念、彼女、彼氏いまーす」
「そんなのどうなるかわかんねーだろ? なあ?」

同意を求められて、仙道は苦笑する。藤真と気が合うと思ったことは、感傷に流されただけかもしれない……と玲は頭の中で訂正した。

「それよりさ」藤真が改めて口を開いた。
「気をつけてくれよ?」
玲は顔をあげた。

「スキャンダル系? ぜってーオレも巻き添えくうからよっ」
「神が言ってたみたいにオレと藤真さんと三角関係って?」
「ったく、ノぼせあがってるやつはだめだな。玲よりおまえの方が心配だ」

そんな話をしながら食は進み、最後は男には丼ものとばかりにイクラと甘エビを加えて海鮮丼にした。
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