続・5年後
□Une robe du soir 1
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藤真は紹介された玲の友人たちと談笑している。まんざらでもなさそうだ。
一段高くなったステージ上では、編集長だと紹介された女性と華として呼ばれたらしき女優がトークショーを繰り広げており、周囲の関心はそちらへ向いていた。
玲は会場の一番右すみの壁に背を向け立っていた。その傍らには仙道。やっと落ち着けるとワインを手に一息ついていたが、次の瞬間、異変を感じて仙道を見上げた。
涼しい顔して左手に持つビールを傾けている彼── しかしその右手はゆっくりと上下に動いている。
玲の背中に置かれたそれは、先ほどまでグラスを持っていたためヒンヤリと冷たい。背骨に沿って這わされるその感触は、人々の熱気あるこの空間の中で対照的に心地よく気持ちいい。思わず身を固くし背を反らせた。
それに仙道も気づき、ニヤリとするのが見なくてもわかった。少し前に移動しても、背中に置かれた手は追ってきて、さらに大きく動く。かと思えば触れるか触れないかの微妙な動きに、玲はゾクゾクと煽られた。
上下していた手が、今度は横にツッーーと線をひく。それは脇をくすぐるように通りすぎ、大きな掌が入り込んできて腰を撫で上げた。肘で押さえつけるように阻止するが、お構いなしにどんどん進出してくるではないか。
が、トークショーが終わったらしく、パッと会場が明るくなるとともに、その手も消えた。
玲が咎めるような視線を向けてくるが、仙道は何くわぬ顔。むしろ笑いを堪えるのに苦労するした。
そこにさきほどステージでトークショーを展開していた女優が通りかかり、仙道に気がつき話しかけてきた。ファンだという。バスケの試合を見たことがあるかどうかすら疑問だな……とは思うが、そう言われたらにこやかに返し、やり過ごすしかない。
そしてふと周りを見ると玲がいなかった。あのカッコでうろうろされちゃたまらねぇと見回すと、藤真と一緒にカメラマンに撮影を頼まれているのが見えた。会場の装花の前に立つ藤真に対し、背を見せるよう斜めに構えさせられている。
「芹沢さん、藤真さんにもう少し寄ってくれるかな」
やっぱりこういうポーズか……と藤真はゲンナリしたけれど、目の端に仙道が映り、ニヤッと口角を上げた。玲の背を抱くように引き寄せた。
「ちょっと、何?」
「仙道見てる。挑発してやろうぜ?」
「バカ……」と言いつつ、玲も藤真の肩に手をかけ微笑んで応じた。
着替えて下に降りると、ロビーで長い脚を持て余すように仙道はソファーに身を沈めていた。
「お待たせ。今日はありがとう……って健司は?」
「先帰ったよ」
「えー、方向同じだから便乗しようと思ってたのに」
「玲はオレと一緒に帰るからいいんだよ」
それより着替えちゃったのかぁと残念がる仙道に、「クレームつけたくせに」と言いながら、ふたりでタクシーに乗り込んだ。