続・5年後

□Imprevu 4
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牧が試合終了後、ロビーを抜けようとスタジアムの出口に向かうと、そこで揉めているらしき男女がいた。違うところから出るかと踵を返そうとしたところ、そこに玲がいるのが見えた。

何事か?と近寄ると、聞こえてくるのは英語。かなり興奮して早口だから、何を言っているか聞き取れない。

玲の他にブルネットの若い外国人女性と、例のテニスプレイヤーがいた。おそらくこのふたりが揉め事の中心。周りの注目を集め始めている。

玲に声かけて移動しようとすると、すかさず「Don't you go away!」逃げるな!と鋭い言葉が飛んでくる。
そして彼も今回のイベントに関わる大事な選手なので、このままにしておくわけにはいかない。関係者しか入れない通路のほうへ促した。


彼女はオーストラリアから彼を追ってきたらしい。状況がよくわからないものの、それでもどう考えてもこの騒ぎは彼女が玲とケントの仲を疑っていることに端を発しているのは明らかだ。
彼が女性に関してあまりいい噂を聞かないと言われていたことを思い出す。

「Are you cheating on me with her?」
彼女と浮気してるの? これはわかった……が濡れ衣だ。

それに対してケントと言い合いが続くが、スラング混じりでよくわからない。が、ところどころから察するに、どうやら彼女を切り捨てたようだ。彼女は逆上した。

玲につかみかかりそうになり、それを庇い、もつれ倒れ込んだケントがケガをした。医務室で応急措置をしたあと、病院へ向かったというのだ。


「玲は?」
「責任を感じたらしく、病院に付き添っていった」

「はあ? 玲、関係ねえじゃん! そいつの自業自得だろ?」

一緒に話を聞いていた藤真が苛立ちを含んだ声で言った。

「まあ、そうなんだが」
「言い出したら聞かなかったんだろうな。ね、牧さん。大丈夫ですよ」

試合後は玲とその男の間に乗り込んでいこうとしたくせに……嫌味なくらい冷静な仙道に藤真は呆れた。

長いつきあいになるふたりは、間にブランクがあるものの、信頼し合っているとでもいうのか。けれど、ふたりはそうでも、周りに揺さぶられ行き詰まることもある。
だからこそ、警戒を怠ってはならないのだ。なのにこのマイペース男ときたらわかってない。

藤真は深々と溜息をついた。すると仙道もちらりと苦笑めいた表情を見せた。

「おまえ、祝勝会どうする?」
「行かないわけにいかないんで顔出しますけど、途中で帰っていいですか?」
「ああ、わかった。適当に逃がしてやるかー」
「ハハ、さすが藤真さん」
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