続・5年後

□Imprevu 5
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シャワーも着替えも済ませ、ひと息つこうと藤真はロッカールームのベンチに座った。何気なく携帯の着歴を見ると、折り返そうかどうしようか迷う相手の名が3回並んでいる。
まあ、いっか。別に嫌で掛け直さないわけではない。放っておいてもまた掛けてくるだろうという算段のもとに、そう思ったのだ。

そして予想通り、いや、それ以上の行動を相手は見せた。

「藤真、いるか? また来たぞー?」と廊下からメンバーの声がした。
来るんなら連絡いらねえじゃん。それとも業を煮やして来たのか?

「サンキュ、入ってもらって」
携帯をしまいながらそう答えた。



「藤真さん、やっぱり練習やったんですね」と飛んできたのは彦一。
「電話でないからこっち来て正解でしたわ」
「電話くれてたの? わりーな」

今見たところなのだから、ウソではないよなと藤真は笑いをかみ殺しながら言った。
それより、と彦一は少し周囲を見回して人がいないことを確認すると、藤真さんに相談するのが一番やと思いまして、と事の次第を話しだした。

知り合いのスポーツ新聞誌にとあるスクープ写真が持ち込まれ、その裏付けをとっていることを偶然知ったのだが、それが玲と某テニスプレイヤーであると。


「あいつか……」
「知ってるんですか?」
「ん、知らねー、けど知ってる」
「……ようわからんけど、何の間違いですやろか。玲さんが……」

仙道とならわかる。それが世間に知れていいのか悪いのかわからずとも、少なくとも間違ってはいない。むしろ彦一としては、このふたりのことを自慢したいぐらいの気持ちがある。
なのに今回のことは青天の霹靂だ。

しかもちょっとその時に小耳にはさんだところ、相手の男は他にもこの手の噂に事欠かないらしい。だからもう少し裏をとってからということで、ストップされているのが幸いともいえた。
何も出てくるわけはないが、仕立て上げられるかもしれない。


「玲は巻き込まれただけだ」
「とは思いますけど、ちょっと相手が悪いんちゃいますか……ね?」
「ああ、あいつもイメージ商売なとこあるからな……」

そのあとに今度は仙道とのことが出ようものなら、批判されるに決まってる。
インタビュー相手と次から次へ。そんな印象を持たれても仕方がない。今後の仕事にも差しさわりが出るだろう。

彦一は興奮して突っ立ったままだった。座れよと促してから、藤真は眉間に皺を寄せじっと考えこむ。

少しばかりの沈黙が流れた。
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