続・5年後

□Imprevu 8
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会場の騒ぎが遠くで聞こえるような不思議な感覚。きつく握られていた手が緩められると、指先に血がいきわたるのを感じた。

「バッグ、置いてきちゃった……」と、自分でもそれは今言うことか? と気が抜けてしまうようなことを口走ると、牧さんが持ってきてくれるだろ、とこれまた暢気な返事が返ってきた。

マイペースを崩さないくせに、時々驚くべき行動力を見せる。少々強引なそれに戸惑うことはあれど、慣れてきてしまった自分もいる。少しは咎めたほうがいいのかと思案していると、藤真やメンバーたちも引き上げてきた。


「何でもないような顔して、意外とムカついてたんだな」
「オレは何を言われてもいいんですけどね」

自分のせいで周囲が悪く言われ、玲が利用されてるとかカモフラージュだとか、そういう目で見られるのがイヤだった。

「でもまたワイドショーネタ、作っちまったんじゃね?」
「すぐ収まりますよ」
「それを我慢できなかったのは、おまえだろ?」とメンバーの誰かが言った。

オレって思ったより気が短けえのかも、と本当にそう思っているとも思えないセリフをはいて、仙道はゆったりと笑った。

「みなさんのおかげですから、今のオレとオレたちがあるのは」
「オレたちって、ついでに惚気てんじゃねー」
「いやいや、特に従兄の藤真さんには感謝してますって」

「だよな。今回のことはオレのおかげ」と言ってしまってから、軽率だっただろうかと思ったが、仙道はそれほどその意味を深く取り合うことなく、ただ頷いているだけだった。

だが、控室に入ろうとしたときにふと言われた「藤真さんらしいですよ」という仙道の不敵な響きの声にハッとした。

「何が?」
「いや、そのまんまですけど?」

彦一か? はたまたオレ自身か? ボロを出したのは。

でも一番油断がならないのは仙道だと、藤真は思った。こいつは何でもなさそうな時や、興味なさげな時に限って油断も隙もねえ。


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fin.  Imprevu
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