続・5年後

□Epice 1
1ページ/1ページ


高速を走る仙道の車を運転するのは、玲。10日間の海外遠征から戻る仙道を迎えに空港に行った。その身長と体格でひときわ異彩を放つ集団は、到着ロビーで探す必要もなく見つけられた。

仙道も玲にすぐ気がつき、「ただいま」と髪を撫でる。たった10日あまり。
出発時には空港まで行かないまでも、一緒に過ごした翌朝、仙道の家で見送った。けれど連絡してもすぐに会えない距離に、何とも言えぬもの淋しさを感じていた。

しかも海の向こうということが、あの5年間を連想させる。昼間は忙しくしていても、夜になるとそれを思い出し、胸が締め付けられるような気持ちになった。

今、目の前の仙道に安心を得て一息つくと、忘れちゃいけない、もうひとり。

「健司!」
「あれ、待ちきれなくて迎えにきたわけ?」
「送ってあげようと思ったのに……」
「マジ?」

邪魔しちゃわりいけど……とか言いながら、少しも申し訳なさそうじゃない。そして飛行機で寝すぎたからもう寝れねえと、後部座席でひとりくつろぎ、玲に要らぬことを吹き込む。

「あっちでさー、仙道モテモテ。ほら、こいつNBAで顔も売れてるし、言葉も問題ねえし。いくらオレでもそれには張り合えないね。だから声かけられまくりで、よりどりみどり」
「………」
「しかもあっちの女の子はアピールの仕方がえげつねーし」
「藤真さんだって、デレデレしてたじゃないですか」

運転してるんだから、邪魔しないでほしい。気が散る。藤真を乗せたことを後悔し始めていた。



その藤真を送って、ふたりきりになるにはなったが、空港で再会したときの甘い雰囲気はどこへやら。こんな時は無駄な話はしないに限る。

所々に不穏な緊張感をはらみながら、自宅につくと、玲はお風呂のスイッチを入れ、「すぐ沸くから入って」と淡々と仙道を促した。
言われるがままに服を脱ぎながら、あれ?まだキスのひとつもしてねえと仙道は振り返る。

本当は、玄関ドアが閉まるなり、連れ去るかのようにベッドに直行。服を脱がせて、直に肌をあわせ、あんなことやこんなこと……
とにかく彼女を感じて、そして自分も彼女に与えたい。そんなことを考えていた。淋しかったなどと、耳元で囁かれたらなおよし。そしてせつなげに自分を求める声に──

(あ……ヤバい)

拡大していく空理空論のような妄想を中断し、慌ててバスルームに入り、それらを洗い流すかのごとくシャワーを浴びた。

湯船につかるころには、さらにその前を振り返る余裕も出てきた。
まったく、藤真さんが余計なこと言うから、と藤真のせいにしつつ、後ろを振り向くふりをしながらチラッと伺ったときの玲の表情をぼんやり検証してみる。

怒ってるでも、不安げなわけでもなく、むしろ呆れているような。特に変わりはないといえば、変わりない。きっと受け流してくれたんだな、と結論づけた。
確かに、向こうの女の子たちの、遠慮なく胸元が開いた服に思わず視線はそこにいってしまったけれど、ただそれだけだ。

 
「ねえ、彰? 大丈夫?」と浴室のドアの向こうから声がかかった。

リフレインさせてしまった豊満な胸の谷間の映像を慌ててかき消し、「ああ、なんで?」と答えると、寝ちゃってるかと思ってと返ってきた。

「今でるところだよ」
「じゃ、ご飯すぐ食べられるようにするから」

ほら、玲はいつも通り。衝動のままになだれ込むのもいいけれど、ここは食事をして寛いで、ギリギリまでお預けにし、お互いのボルテージが最高潮のときに愛を確かめあう、これでいこう。などと仙道はニコリとしながら考えていた。
次の章へ
前の章へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ