続・5年後
□Dejeuner
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南向きの部屋に柔らかな光がうらうらと差しこんで、床に四角い陽だまりを作る。室内にはキーボードを叩く乾いた音だけがわずかに響き、平和であった。
練習が午後からの仙道はランニングに出ている。きっと海側に向かって走り、Uターンしてくるのだろう。
とはいえ、この辺りはコンテナと大きなUFOキャッチャーのようなクレーンだらけの埠頭ばかり。向こう岸はお台場。その無味乾燥な風景は彼を満足させはしないだろうけど、それでも潮風に吹かれにいく。
玄関から音がする。戻ってきたようだ。いつもならそのままバスルームに直行するのに、リビングにやってきた仙道のその手には白いレジ袋。
「ただいま」
「お疲れ。何買ってきたの?」
ニッコリしたまま、キッチンで手を洗うと、仙道はそのままお米を量り、とぎ始めた。
「商店街角の魚屋のオジサンがさ、いいアジがあるよって。これで昼にしようぜ? だからもう3枚に下ろしてもらった」
「もうそんな時間……? 昼から豪華だね」
「とにかくオレがやるから。でもその前に汗だけ流してくる」
炊飯器のスイッチを入れ、そのまま嬉しそうにシャワーを浴びにいく。玲もキリがいいところまで終わらせようと、また作業に戻った。
まったく別のことをしていようと、食事や寛ぐ時間はともに。お互い違うことに気をとられていても、そのわずかな時間だけはせめてふたりで。
どちらかといえばマイナスな湿っぽい話は一緒に湯船に浸かったとき。気持ちをときほぐし、洗い流せるように。
そしてベッドの上では互いのことだけを。
そんな日常に慣れてきた。そして完全に馴染むころには、もうそれなしではいられない。
隣のイスに腰掛けた仙道の、首にかけたタオルに髪から落ちる水滴が吸い込まれていく。ちゃんと拭いてから出てきてよと立ち上がって、そのタオルで頭を包み、遠慮なくゴシゴシやった。
手櫛で軽く整えてやってから、自分より下にある顔をはたと見つめた。仙道も「ん?」という表情をし、「腹減った?」と聞いてくる。
「うん。手伝うからやろっか」
たわいないやり取りだが、なにものにも変えがたい。