続・5年後

□Viande grillee 2
2ページ/2ページ


表に出たのはごく最近だが、仙道と玲の付き合いはトータル長い。ずっと彦一から聞かされていたし、一連の報道もすべて承知している。そして、今日、ふたりを目の当たりにして確信した。

特に会話をするわけでも、目を合わせるでも、玲が仙道に何かするわけでもない。むしろ藤真の世話を焼かせられていたくらいだ。
だが玲が仙道を見上げるときの揺るぎない信頼に基づく視線から、また仙道が玲を慈しむような笑みで包む自然な有り様から、気持ちの深いところで結び合わされている、そんな印象をもった。ふたりにしかわからない暗号めいた空気がある。

自分と彼もそういう感覚のところがあるなと、弥生はぼんやり感じていた。
同じ空間にいて、別々のことをしていても、そこはとても居心地がよい。いてもいなくても同じだからだと思っていたが、違う。そこには精神の休息と安らぎがある。彼とならこの先もともに歩んでいけると、弥生は決意をさらに強くした。


「あれ? 玲、戻ってこねーな?」
と藤真が振り向くと、他のお客さんに捕まり、笑って話し込んでいる玲が目に入った。
「あの酔っ払い……」
「回収してきますよ」

仙道が近づいていくと、相手のおばさま方に「あら、まあ!」と驚かれ、また数分捕まる始末。何とか上手に笑みでかわしながら、その場を辞すると、皆で店を出た。



方向が同じ藤真が、玲を連れて帰るとタクシーにふたりで乗り込むが、すぐに藤真に寄りかかるようにうつらうつら寝てしまった。

「ちょっと待っててもらえますか?」

玲の家の前で運転手にそういうと、疑いの目を向けられる。本当に戻ってくるんですかあ?とでも言いたげだ。
ぜってー勘違いしてんな、と舌打ちしながら、おぼつかない足取りの玲を引っぱるようにエントランスをくぐった。


「弥生さん、幸せそうだったね〜〜いいなあ〜〜」
「あ? まだ言ってんのか。……なあ、おまえだったらどーすんの?」
「何を〜?」
「仙道にプロポーズされたら」
「ん〜、健司に聞く」

まわらない思考で即答された玲の答えに、藤真は呆れた。

「どうしよう、ってか?」
「ん? うん、そう」
「バカだな、飲み過ぎなんだよ。 あー、ニンニク臭せぇ」

ここで大丈夫だからとエレベーターで玲と別れた。もしかしてオレはいいようにかわされたのか?と思いつつも、頬が緩む。ため息ともつかぬ息をはき、何とも決めがたい表情を浮かべた。

サッサと戻ってきた藤真に、運転手は少し驚き、後部ドアを開けた。
次の章へ
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ