続・5年後

□Teuf 2
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深夜をとうに過ぎても、窓の外は暗闇に染まることを拒むかのように、ビルやマンションの明かりが散りばめられている。
それはいやに静かで、室内に漂うオープンでリラックスした、かといってどこから突っ込みや横やりが飛んでくるかわからない小気味よい雰囲気とは別世界のようだ。

最初に飲んでいた店で、それぞれの現況・仕事の話、そして現在のバスケリーグや世界中の選手のことなど、いわゆる当たり障りない話はすでに済んでいる。
とすれば、誰に聞かれる心配のないここでは、昔の話や互いのプライベートなことに必然的に話題は移っていく。
藤真がおもしろおかしく語るのは高校時代の話。玲にとってもそれらは実に懐かしい。

反対隣りに座る神が、「オレら、玲ちゃんのこともその頃から知ってるわけだよな。不思議な縁だね」と優しく微笑む。自分にも話を振ってくれる神の気配りは相変わらずだ。

「オレは血縁関係まであるし、って藤真さんが言いそう」と仙道がプッと笑いながら小声で付け加えた。

ふたりに向かってこっそり言ったつもりだったのに、それはしっかり藤真の耳にも届いてしまったらしい。

「おい、将来、オレと親戚関係になりてえってヤツが何言ってんだ。ゼッテー断固反対してやるからな」とピシャリと音がしそうな声で咎められ、仙道は大げさに困ったような顔をしてみせた。


「だいたいこいつ、浮気してんだぜ? 証拠あんだよ。見る?」

藤真特有の悪ふざけだと皆わかってはいるが、仙道と行動をともにすることが多いであろう彼が証拠もあると言う。

玲は呆れきって、他人事のようにグラスをまわしながら、平然とそのまま飲み続けていたが、携帯の画像を見せられた牧が「これは……?」と発したまま、チラッと玲を見た。
どう見ても玲ではないと確認するように。玲と見比べるように。

見せろと三井がその携帯を手にする。おっ、と眉を上げ、仙道をニヤリと見やる。
それを見た神も覗き込むと、用心深く言葉を選びながら、「これはかなり……仙道が珍しく…その気というか。こんな顔、初めて見ましたよ」と漏らした。


身に覚えもなければ、浮気なんて言葉はカケラも仙道の脳裏には刻まれていなかった。だが、まだ酔っているはずもない神にそう言われると気になってきたらしい。
ひょいと長い手を伸ばして、三井から受け取ると、サッと見て「あぁ……」と悠長に頷いた。

「いい女でしょ? お持ち帰りしたいくらいだったのに、藤真さんに止められたんですよ」

さっきから皆が自分を挑発しているように感じられて、玲はその手にはのらないぞと思いながら、涼しい顔を見せていた。
たが、あっさりと発された仙道の言葉に、一瞬、玲の頭はその意味が飲みこめない。パチパチと瞬きだけ繰りかえすことしか出来ない。

「仙道のモロ好みだろ、彼女」
「顔見てすぐわかったぜ」
「だから藤真さんに『手をだすな』って言われちゃいましたよ」

憂いをもった目の中に、訳ありそうな微笑を含ませ、仙道は玲を振りかえった。
ほら、と言いながら見せてくれたのは、先日、姪っ子を預かったときに撮ったもの。そういえば藤真に送った。

「お姉さんのお子さんなんだっけ? やっぱり似てるよ」
「将来が期待できるな」
「だろ?」
 
お持ち帰りというより、もし連れ帰ったら“誘拐”でしょと、玲はため息まじりにつぶやいた。
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