続・5年後
□Teuf 3
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ぐったりと身を預けてくる玲をベッドに下ろし寝かせる。そしてリビングからこちらが見えないのを確認すると、軽く頬にキスを落とした。
玲との関係が表に出たころ、ご結婚は?と辟易するほどよく聞かれた。
その時は気が早えなあとしか思っておらず、それは今でもそれなりに聞かれるが、聞かれたからといって答える筋合いはない。
「しますよ──」
自分でも驚くほど自然に言葉が出た。ここのところ、どこか頭の片隅でぼんやりと温めてきた考えだが、はっきりと口にしたのは初めてかもしれない。
そして出してしまえば、それは決定事項。さあ、玲、どうする?と、すっかり寝入って微動だにしない体にそっと毛布をかけた。
再び男たちが談笑する場に戻れば、賭けの対象にされていたようで、戻ってきやがったと藤真と三井が手持ちの酒をイッキ飲みした。
「クソッ、一緒に寝ちまうと思ったのによ。おまえも飲め!」
いつものようにニッコリとごまかそうと思ったのに、藤真にそれが通じるはずもなく、しっかりと杯を空けさせられた。
「で、仙道、どうするつもりだ?」
こういう場面で、いつも会話を整理し方向づけるのは牧の役目。すかさず相手のエリアに鋭く切り込んでくる。
「何を? なんて言わないでくれよ?」
そこからのパスをうけて、後ろから神が援護する。懐かしい。海南の型が出始めたなと仙道は口角をあげた。
「まあ、そのうち言います」
「どうやって?」
「これから考えるんですよ」
「考える? そりゃ、ねえな。おまえは思いつきでサラッと行動しちまうヤツだ」
またそれが絶妙だったりするから腹立つんだよ、と藤真は言い添えた。テーブルに肘をつき、グラスを傾けながら、三井も仙道を横目で見上げながら言う。
「玲ちゃんがOKしたらなんて言ってたけどよ、断られるなんてこれっぽっちも思ってねーだろ?」
仙道は苦笑した。
「そんなことないですよ。何が起こるかわからないって、三井さん、よく言うじゃないですか」
「なら、プロポーズが肝心だってことでよく考えるんだな」と牧が結論づけた。
いつもなら相手をうまく煙に巻いてしまう仙道も、彼ら相手だと見透かされてる部分があるのか、かわしきれない。長い付き合いゆえの賜物であり弊害だ。
藤真相手にシュミレーションしたらどうかなどと余計なことを神が言い出した。
「それ、きっとことごとく潰される。圧倒的にオレが不利」
「そういう状況こそ、燃えるだろ?」
そんなことを言うのは三井だ。
「俺は三井さんみたいに逆境フェチじゃねーし」
「いや、おまえもかなりのMだ」
「藤真さんを頷かせるなんて無理っすよ」
「玲ちゃんなら大丈夫って? ほら、やっぱ自信あんじゃねーか」
もはや手に負えない。藤真に向かってプロポーズのひとつでもすりゃいーんだろ、と開き直ったところで、それを牽制するかのごとく藤真が口を開いた。
「その根拠ねえ自信もって言やぁいいんだよ。それくらい出来るだろ? ただしあっちで寝てるヤツにな!」
これは藤真のお墨付きをもらったということだろうか。グラスの酒を飲みながら、仙道は寝室のドアを見つめた。
旧知の心安い仲間との居心地の良い空間に加え、アルコールがほどよく精神を解きほぐす。今ならこの勢いで本人に言えるかもしれねーな、と心の中でふと思った。