続・5年後

□L’emission speciale 1
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「まいったよ……」

まだ夜も遅くない時間。仙道が突然やってきた。飲む?と冷蔵庫からビールを取りだしたが、もうそれなりに飲んでいるからいらないと言う。代わりに熱いお茶を煎れた。

ここ数日、テレビの特集のために密着されていることは知っていた。今日は魚住の店でロケもどきをするとも。

「予想できた展開でもあるんだけど、田岡先生が来てくれた」

恩師ご登場ってやつである。玲は同情の眼差しを仙道に向けた。

「開口一番が『芹沢は元気か?』でさ。スタッフが後で、おいしいんで使ってもいいですか? って確認してきたな」

試合中、相手の布陣に鋭いドライブで切り込む仙道はどこへやら。緩慢ともいえるゆったりした動作で大きく伸びをすると、そのままソファーの背に頭を預けた。男らしく隆起した喉元が色っぽい。

「アハ、先生らしい」
「相変わらずだったな。『仙道ォ!!』って今にも怒鳴ってきそうだったぜ?」
「彰も相変わらずだからでしょ」

高校時代、自分を見かけると、アイツを何とかしてくれと冗談交じりに訴えてくる田岡に、「知りませんよー」なんて返していたことを玲は思い出す。
そしてそのあとは必ず「芹沢は調子はどうだ?」と声かけてくれる優しさも。何だか随分と昔のことのようだ。

その後、仙道の話を振られると田岡の独壇場になったとか。それを聞いているのか聞いていないのかの仙道、先生の言う通りだと苦笑する魚住が想像に易い。

お店に迷惑がかからないよう昼を避けての取材で、しかも気を効かせて最後にもってきてくれていたので、そのまま仕込みをする魚住をカウンター越しに、夜の営業時間まで田岡と飲んできた。
まいったな……なんて帰ってきたわりに、嬉しそうにその話をする仙道に、心がほのかに温まり自然と笑みが浮かぶ。

「私も田岡先生に会いたいかも」
「あ、何か玲に頼みたいことがあるっていうから、連絡先教えたよ」
「うん。何だろ? わかった」
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