続・5年後
□L’emission speciale 2
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『彼は今回の密着を快く引き受けてくれて、その飾らない素顔を──』
「そりゃそうだよね。いようがいまいが彰には関係ないもん」
練習風景が映し出された画面を見ながら、玲はテレビに向かって突っ込みを入れる。
「ADさんにいつも通りにお願いしまーす、とか言われてニッコリしといて、“この人誰だったっけ…?”とか思ってそー」
ねっ?と振り向かれ、仙道は苦笑した。確かにそうかもしれない。関係ないというところ。
企画を持ちかけられ、マネージャーに「バスケをもっとメディアに載せて盛り上げろ」とか何とか言われたから応じたまで。いつもと何も変わらない。
だからといってスタッフの顔ぐらい覚えてるさ、と玲の皮肉のこもった言いっぷりにやれやれと思っていると、懐かしい映像が映し出された。
高校時代の回想シーンである。彦一の録画から抜いてきたと思われるそれは、神奈川予選の決勝とIHの最後の一戦。
「予選の決勝のほうさ、『仙道! 私勝ったから!』って玲の声がしっかり入ってたらしいぜ?」
「え!?ホント? ものすごく恥ずかしいんですけど……まさか、その後も……?」
玲の困惑するさまを楽しむように仙道はニヤニヤと薄い笑みを目に滲ませている。ふたりにとってあの頃は大切でかけがえのない思い出だ。なにものにも替え難い。
「それよりほら、先生。変わんねーだろ?」
「わあ、変わってない。うん、『仙道ォ!』って聞こえてきそうなくらい。だけど、嬉しそう。見たことないような笑顔してる」
その笑顔のまま、田岡が仙道について語る。
幾多の追い込まれた局面でも、仙道になら任せられた。ここぞというところを見極め、必ずやってくれた。チームの柱であり要。こんなに信頼できる選手はなかなかいないし、いつも最高のプレイをしてくれた、と。
「あれ、こんなこと言ってたかなー?」と、その場にいたくせに首をかしげる仙道に、玲は呆れた。
番組はそのまま彼の軌跡をたどっていく── 進学、そして渡米。ナレーションはよどみなく誇らしげにアメリカ行きを告げる。
明らかに互いの口数が減った。大事なステップであるのだが、どうしてもその当時のことを思い出してしまう。だが、これ抜きで仙道を辿ることはできない。
玲の沈黙の意味を痛いほど感じながら、仙道はそれを繋ぎとめるように玲の手をとり指を絡ませるように包んだ。
NBA入団の際の会見模様が流れた。今よりも髪は長めか。そして少し若い。飄々としている、そのイメージは変わらないが、『覚悟して、すべて投じるつもりできている。ここがスタート』といつもより雄弁な仙道。自分自身に、そして自分の奥深くへのメッセージだ。
「見たよ、これ。嬉しかった……」
ぽつりと発された玲の言葉に、仙道は伝わっていたんだと唯々うなずいた。
もう離さないからと抱きしめたい。だが終わってからって約束だったなと、仙道は覚えた衝動を何とか抑えた。