続・5年後
□Projet sans planification 2
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「いつから聞いてたの?」
「ん、最初から」
生徒たちが体育館に入ったあとに、こっそり裏から舞台袖に入れてもらったそうだ。
確かに仙道が来ると知っていたら、全力で拒絶しただろう。それを見越して内緒にしていたのかと思うと、余計に恨めしい。
「そのままの話を聞きたかったんだ。俺の知らない頃の玲の―――」
話の大部分は仙道のアメリカ時代と重なる。その時に玲が何を考え、そのためにどうしたのか、改めて知りたかったと言う仙道。
それにしても驚かされた。田岡も田岡だ。そんな素振りはまったく感じさせなかったのだから、相変わらず懐が深く、かといって油断ならない。
その田岡が昼は魚住の店へ行ってこいと言った。なので、魚住は玲が訪れることは知っていたらしく、当たり前のように迎えてくれたが、その後ろから仙道が現れたのにはやはり驚いていた。
「やだな、魚住さん。この間会ったばかりじゃないですか」
「だからだ。まったく音沙汰ないかと思えば、月一で通ってくれるのか? というより、オレは芹沢と田岡先生が来ると思ってたんでな」とカウンターに座るよう、ふたりを促した。
「あ、田岡先生、玲とデートしようと思ってたのかな」
「うまい魚を仕入れておいてくれと気合い入ってたから、そうだろう」
邪魔しちゃったな、と言いつつも悪びれた様子もない仙道は、そのまま出された刺身を美味しそうに平らげ、「この魚住さんの『鰈の煮付け』は最高なんだ。これには玲も、玲のお母さんも、悪いけどちょっと及ばないぜ?」と上機嫌だ。いつもより少し饒舌なくらい。
仙道が席をはずした時に、魚住も「何かあいつを喜ばせるようなこと言ったのか?」と不思議そうだった。
「さあ……、よくわかりません」
「はは、芹沢もわからないか。そうか。今も昔もよくわからない男だ」
玲にはそんな風に言ったにもかかわらず、今度は玲が化粧室に行っている間、魚住は他の客に出すための魚を捌きながらポツリと言った。
「仙道、何をたくらんでるんだ?」
「何のことです?」
「ふ…ん、ま、簡単に口を割る男じゃないことも知っている。愚問だったな」
仙道は椅子の背に体を預け、カウンター内の魚住をしげしげと眺めた。高校に寄ってから来たせいか、懐古の趣ばかりが湧きあがってくる。
「オレのキャプテンはやっぱ魚住さんなんだよなー」
「なんだ、それは。藤真が泣くぞ?」
仙道は苦笑いで返した。藤真だけではない。他にも素晴らしいキャプテンや、それこそ名監督と呼ばれる人の元にいたことがある。
だがそれとは別の次元で、仙道の根底の部分で。今でも自分の中のキャプテンは魚住で、監督は田岡だと思う。その図式は変わらない。それだけかけがえのない存在だ。
さて、支払って出ようとすると、この場のお代は田岡もちだというではないか。そういうわけにはいかないと言っても「オレが先生から怒られる」と魚住も譲らない。
「じゃ、差し入れいっぱい買っていこうか」
「そうだね」
「それと、行く前にちょっと寄りたいところがあるんだ」