続・5年後

□Prologue
1ページ/2ページ


シーズンオフとはいえ、7月からはチーム練習が始まる。その前に、玲は何とか1週間の休みを捻出した。少し早い夏休み。

仙道はといえば、オフの大事な仕事である契約交渉もスムーズに成立しそうだということで、こちらも早くも久しぶりの休暇に向けて前向きだ。彼が積極的になるなんて珍しい。

「アメリカいた時のフランス人の知り合いが、旅行関係の仕事してるんだ。来るなら絶対連絡してって言ってたから、ついでにホテルおさえてもらうか」

今、向こうは昼間だな、と電話を掛け始めた。
メールを面倒がるあたりは仙道らしい。だから自分にも必要な時しか寄越さない。

だけど、あれは1か月ほど前になるだろうか。
気持ちよくお酒が入ったときに陽気な電話をかけてくることがあるのだが、その時はタイミング悪く出られず、珍しくメールをもらった。その仙道っぽくない、彼らしからぬメールは貴重すぎて携帯の別フォルダに保存してある。

夕食後の洗い物をしながらそれを思い出し、玲はふふっと笑った。
さて、和食だったことだし、お土産でいただいた新茶を入れようか。そこに飛び込んできた仙道の静かだが深みのある声。


「Sophie! Been a while, huh?」

ソフィー、女性の名前だ。知り合いって、女の人だったんだ。
久しぶりだな、と続く挨拶はとても親し気で、思わず玲は耳をそばだててしまう。しかもスピーディーでラフな表現混じりの英語は、意識しないと聞き取れないものがある。

近況報告らしきものが済んだところで、仙道がパリに行くことを話し始めた。だが、圧倒的に相手がしゃべっているらしく、仙道は相槌を打つことが多い。なおさら様子を伺い知ることができない。

肝胆相照、身も心もすっかり許し合った間柄であっても、アメリカでの女性関係について触れたことはなかった。きっと無意識に避けていたのだろう。

知りたくないというより、知ったときの自分を想像するといやだった。
理解を装い、何でもないような顔をしながら、今さらどうにもならない過去に嫉妬するに決まっている。自分のことは棚にあげて、ひどい話だ。身勝手極まりない。仙道が誰と何をしていたとしても、それは自由なのだから。

玲は雑念を振り払うように背を向けた。満たされすぎて、自分はおかしくなっているんだ。余計なことを考えてしまうのは、そのせいに違いない。


冷蔵庫の扉を開けてメロンを出した。これも頂きもの。スポーツ選手への差し入れとして、旬のフルーツなら間違いないと思われるらしい。
小ぶりながら高級そうなメロン。だけどきっと仙道ひとりだったら食べ忘れて、もったいないことしちゃうんだろうなあと、玲は苦笑した。

「何、笑ってんだ?」

電話を終えた仙道がすぐそばに来ていた。
次へ
前の章へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ