続・5年後

□Prologue
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「フィアンセと行くって言ったら、ソフィー、驚いてたよ」
「パリジェンヌのお友達……?」

玲の穏やかだが、その静かな声にはらんだ不安に気付いたらしく、仙道は優しく説明する。

「ジェンヌっていうより、パリマダムかな。年上だし、結婚はしてないけどパートナーがいる。事実婚っていうのか? それに彼女、息子呼ぶみたいに『モンプチ』って俺のことふざけて呼ぶんだぜ?『プチ』はねーだろ」

彼にはなんでもわかってしまうのだろうか。
先ほどからの悶々とした葛藤、わがまま、嫉妬。そんな薄暗い感情を見透かされるのは、ベッドの上での恥ずかしい行為よりも羞恥を覚える。自分を丸裸にされた以上に暴かれた気分。そして悔しい。


玲は勢いよくメロンを二つに割った。少し力んだせいで、まな板に包丁がぶつかり、ダンッと大きな音がした。

「彰って、何か……やらしい」
「何だよ、急に。まだ何もしてねーよ?」
「そういうことじゃなくて」
「よくわかんねえけど……そういえばこの間、同じようなこと言われたなー」
「え? 誰に!?」

思わず問いただすような口調になってしまった。

「どっかの週刊誌の女性記者さんに。存在がエロティックとか何とか」

あっさりと何でもないことのように仙道は答えた。そして「包丁片手に怖えーんだけど」とニヤリと笑う。

「藤真さんはロマンティックな王子様とか言われてた」
「エゴイスティックの間違いでしょ」
「玲がそう言ってたって、藤真さんに言ってやろ」
「そんなことしたら、あのメール、転送しちゃうから」

そんなやりとりのせいで、すっかり毒気を抜かれてしまった。玲は呆れたように息を吐き出し、再びメロンを切り始めた。甘やかな香りが広がる。

「美味しそう」
「冷やし過ぎると味が落ちるって言うから、玲が来る直前に入れたんだ。ちょうど食べ頃だろ?」

そう言うと、食べやすい大きさにカットされたひと切れを摘み、玲の口に入れた。
甘すぎるくらい甘いそれ。もう、なんでこんなにこの人は―――

切ったメロンをお皿に移そうとすると、頬に仙道の息がかかった。そのまま覆うように口づけられ、何度も唇を吸うように重ね合わされる。
食べたばかりのメロンの芳醇な香りが鼻に抜け、より甘さを増すように感じた。仙道も「甘ぇ……」と呟いた。

幸せすぎて、かえってつまらないことを考えてしまうのだろう。
何よりも、今、彼はこんなに優しく自分のそばにいてくれる。しかも、この先も共に過ごすことを誓おうとしている。それ以上に何を望むというのか。



「メロンに日本茶って渋いな……」

玲は小さく笑った。だが、和洋折衷も悪くない。

「ね、海外で緑茶はブームらしいから、ソフィーさんへのお土産にどう?」
「そうだな。そういえば彼女、1日だけ自分に予定を任せてくれないか? って言ってた」
「案内してくれるのかな? 楽しみ」

「もっと楽しみにして欲しいことがあるんだけどなあ」と子供みたいに拗ねたようなことを言うから、玲は笑みを深め、自分のメロンを仙道の口に入れた。本当はいたたまれないほど嬉しい。

そして、言葉にしなくとも、仙道にはそれがわかっているはずだ。揃いの湯呑みを口にすれば、新茶独特の爽やかでみずみずしい香りが広がった。

「そうだ、藤真さんにも報告しねえと。今週、タイミング合わなくて会えてねーんだよ」
「彰……しといて……。ほら、いつもみたいにサクッと。得意でしょ?」
「それが通用しそうにねえから、困ってるんだよな」
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