続・5年後

□Prologue2
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仕事を終えると、仙道からメールが入っていた。『電話して』相変わらずそっけない。
しかし、わざわざ彼がメールを寄こすぐらいだから、何か急ぎの用なのだろう。

折り返すと、「藤真さんがメシ食いに行こうって。今から言う店に来て」とのこと。なーんだ、と思いかけたが違う……きっと耳に入ったんだ。あれは先週の土曜のことだというのに―――


南青山の路地裏にひっそり佇む創作和食のレストラン。大学時代をこの辺りですごした藤真のテリトリーだ。さらにその個室ってところが、呼び出された感ハンパない。
仙道は先に到着しており、ふたりのピルスナーグラスは半分ほどになっていた。

「ビールでいいよな? オレらも追加で。あと料理お願いします」

案内してくれた店員さんにオーダーする藤真はにこやかだ。そして戸が閉じられ3人になると、「サラッと行動しちまったってわけか」と口を開いた。

「高校に行く機会があったんで。オレと玲にとってベースですから」
「なるほど。陵南、ロケーションいいもんな。玲、郷愁の念に駆られて、あっさりOKしちまったんだろ?」
「…………」
「しかもずりぃよな。叔父さんを孫でメロメロにしてその隙に、って」

伯母さんから電話があったそうだ。
「おまえらがサッサと言わねえから、話かみ合わなくて困ったぜ」と不機嫌さを滲ませた声……だがその表情は温かく柔らかい。
「はい。スミマセン……」
玲は素直に返事をした。

あえて今の話の中で訂正するとするならば―――
確かにその場をなごませてくれたのは姪っ子だったが、その姪がはしゃぎ過ぎて寝てしまった時、父は仙道を自室に呼んだ。
何を話したのか、後で仙道に聞いても、「あれは男同士の話だから」と教えてくれない。けれど、どうやら「娘をお願いします」と父が頭を下げたようだと、母からこっそり聞かされ、胸が熱くなった。

もしかしたら、藤真もそこまで知っているのかもしれない。ふとそんな考えが頭をかすめた。


ビールがきたので、いったん会話を中断した。それとともに、コース料理の前菜が運ばれる。

「乾杯すっか。癪だけど、ま、当然の成り行きだな」

グラスを合わせた時に、静かに「おめでとう」と言われ、玲は久々にまじまじと藤真の顔を見つめた。これが他の誰かの言葉なら真っ直ぐに受け止められるのだが。

「何だよ」
「ううん。ありがとう」
「と言っても、婚約しただけだから、まだ何があるかわかんねーけどな」
「………」
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